元魔王様とSランク冒険者 2
巨漢の女装した男は挨拶ついでに大きな目でバチンと音がしそうな豪快なウインクまでしてくる。
ジルは初めて見るが所謂オカマと言われるものだ。
「ラブリートさん、お久しぶりです。」
ジルが少し衝撃を受けているがミラは普通に対応している。
知らない仲でも無い様子なので慣れているのかもしれない。
「珍しいですね、何か依頼でも受けにこられたのですか?」
「そうなのよ、たまには身体を動かさないと鈍っちゃうのよね。でも、その前に面白いものを見つけちゃったのよね。」
そう言ってラブリートと呼ばれたオカマの視線がジルを捉える。
「我に何か用か?」
「こんな逸材を見たのは久しぶりだったから気になっちゃったのよ。」
そう言って興味深そうな視線をジルに注いでくる。
初めてあったのだがジルから何かを感じ取ったらしい。
「さすがラブリートさんですね。分かっちゃいましたか?」
ミラはジルを褒められて嬉しそうだ。
自分が殆ど担当受付嬢の様になっているので、自分の担当の冒険者が褒められるのは自分の事の様に嬉しいのだろう。
「よくこんな子見つけてきたわね?」
「少し前にセダンの街にいらして登録してくれたんですよ。」
セダンの街にきてからそれなりに時間が経っているのだがラブリートの事は見た記憶が無い。
冒険者ならば定期的な依頼が義務付けられている筈なのでそれなりにギルドに通っているジルは少し疑問に思った。
「そうだったのね。才能って凄いわね、こんなにまほ…。」
「ちょっと待て!」
ジルはラブリートの言葉を聞いて恐ろしい程の反応速度を示す。
何か良からぬ発言をしそうだと感じたので言葉を被せて発言を止める。
「どうしたのかしら?」
ラブリートは突然大きな声を発したジルを不思議そうに見ている。
「いいから少しこっちにきてくれ。」
ラブリートの事を人がいない依頼ボードの前まで連れてきてミラから遠ざける。
ラブリート同様ミラも突然どうしたのかと不思議そうな表情をしていた。
「さっきあんたは何を言おうとしていた?」
周りに人はいないが一応小声で尋ねる。
「突然どうしちゃったのかしら?」
「いいから我の質問に答えろ、小声でな。」
大きな声で言われたらこっちにきた意味が無いので忠告しておく。
「何って魔法の才能が凄いわねって言おうとしただけよ?」
ラブリートは平然と先程の言葉の続きを教えてくれる。
悪意は微塵も無く純粋な感想でしかない。
「それはどう言う意味だ?」
「どう言う意味ってそのままの意味よ?それだけ
ラブリートの発言を聞いたジルはさっきの自分を褒めてやりたいと思った。
予想通りラブリートは良からぬ事を発言しようとしていた。
何故かは分からないがラブリートはジルが複数の魔法適性を持っている事を知っていた。
「やはり我の魔法についてだったか。」
あの場で話されていれば火魔法以外を使える事がギルド側の多くの者に知れ渡っていただろう。
ミラだけなら何とかなるかもしれないが、あまり知れ渡ってほしくはない内容だ。
「そうよ?受付嬢なら知っているから問題無いでしょう?」
周りに冒険者がいなかったのはラブリートも把握していた。
ギルドカード作成の際に魔法道具による登録をされるのでスキルや魔法の適性はギルド側に知られる。
個人情報なのでむやみやたらと広まったりはしないが、当然その対応をした受付嬢は内容を把握している。
なので受付嬢の前で話してもその内容は知られている事なので特に問題は無い。
「問題ある。我は火魔法しか使えない事になっているのだからな。」
「火魔法だけ?それだけの適性を持っているんですもの、5つくらいは扱える筈でしょう?」
適性を持っているからと言って全てを完全に使いこなすのは難しい。
適性の高さ低さによっては長い訓練の果てでようやく扱える様になるものもあるからだ。
それでも一つしか使えないと言う言葉にはラブリートも疑問を抱いてしまう。
それだけラブリートにはジルが沢山の魔法適性を持っている事が分かっているのだ。
「どうだかな。成る程、適性の魔眼か。これを我に使ったのだな。」
ジルはラブリートに万能鑑定を使った。
これにより何故ラブリートがジルの魔法適性の多さに気付けたのか理解した。
ラブリートは適性の魔眼と言うスキルを持っていたのだ。
これは習得している魔法では無く、視た者に少なからず適性のある魔法が分かるスキルだ。
本人がまだ習得していないものや適性が低過ぎて本人すら自覚していないものも知れる。
「あら、貴方も何か鑑定スキルを持っているのね。そうよ、沢山適性を持っているから驚いちゃったわ。」
「全く、面倒な事をしてくれる。」
そもそも勝手にスキルを使用してくるなと思ったが、自分も万能鑑定には世話になっているので人の事は言えない。
「成る程ね、登録する時に何かしたのね?」
ジルの言動から何か不正行為をしたと察したラブリートは笑みを浮かべながら呟いた。
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