20章
元魔王様とSランク冒険者 1
領主であるトゥーリの依頼でシュミットの護衛を引き受ける事になった。
長旅になると言う事もあり、シュミットが旅の準備を終えるまでは暫く自由にしていていいらしい。
時間を持て余したジル達は、セダンの街を訪れたばかりのナキナに街の案内をしたり、食べ歩きや買い物などしてゆっくり過ごしていた。
「そう言えばそろそろ依頼をしておかなければならないか。」
ジルは読んでいた本から顔を上げる。
身分証である冒険者カードを剥奪されない様に依頼は定期的にしなければならない。
面倒と感じる時もあるが報酬として金を稼ぐ事も出来るので継続はしている。
異世界通販のスキルに金は湯水の如く消えていくので金は少しでも稼いでおいて損は無い。
「我はギルドに行ってくるがお前達もくるか?」
同じく部屋にいるシキとナキナに尋ねる。
ナキナは部屋は違うが寝る時以外は護衛としてシキの側にいる。
ライムも近くにいるのだが従魔としてシキに従うので気にしない。
「今日は別行動をしてもいいです?やりたい事があるのです。」
「別に構わないぞ。ナキナはどうする?」
「妾は昨日依頼を受けたばかりじゃからな。護衛らしくシキ殿に付いていこうかのう。」
ナキナもジルと同じく冒険者登録しているので定期的な依頼を義務付けられている。
と言ってもジルとは違って時間さえあれば依頼を受けているので特に焦って依頼を受けたりする必要は無い。
なのでナキナは依頼の時以外は殆どシキと行動を共にしている。
これでジルがいなくてもシキをある程度自由にさせられる。
ナキナのおかげでシキの行動の幅が大きく広がり、自由にやりたい事が出来る様になったのは喜ばしい事だ。
「それは助かるのです。ナキナも連れていくのです。」
集落にいた頃はナキナの事をお姫様とシキは呼んでいたが、自分の護衛になったのと目立つ呼び方と言う事でナキナと呼ぶ事になった。
「分かった、シキの事は任せたぞお前達。」
ナキナとライムを見てジルが言う。
護衛と従魔にはシキの安全をしっかりと守ってもらわなければならない。
ライムも最近力を付けてきているのでナキナと共に護衛の役割をしっかり果たしてくれるだろう。
「任せておくのじゃ。」
ナキナが胸を叩いて自信満々に宣言する。
ライムもプルプルと揺れて了承している様だ。
護衛が二人付いた事によって頼もしさも増した感じがする。
これまでのナキナを見てきたので強いのは分かっているから安心して任せられる。
ライムも成長中ではあるが確実に強くなってきているので、このコンビなら大抵の相手には負ける事は無いだろう。
シキの事を任せてジルはギルドへと向かう。
「人は少なくていいが良い依頼は残っていないだろうな。」
ギルドを訪れたジルは中を見回して呟く。
朝の冒険者ラッシュを終えたばかりなので冒険者も依頼書も殆ど残っていない。
「お、丁度良いのがあるじゃないか。」
ジルがDランクの依頼ボードに良さげな依頼を見つけたので一枚剥ぎ取る。
依頼内容は薬草の納品依頼である。
「ついでだ、他の納品依頼はっと。」
自分が受けられるランクの依頼から良さげな納品依頼だけを集めていく。
採取依頼もあるのだが納品依頼しか選ばない。
何故かと言えば条件の違いである。
採取依頼は依頼書に指定された場所に赴き鮮度の良い物品の納品を求められる。
対して納品依頼は指定された物を数量分納品するだけでいい。
手持ちに持っていればそれを出すだけで依頼達成となるのだ。
なので無限倉庫のスキル内に余らせている納品物の依頼書を選んでいけば、わざわざ取りに行かなくても楽々依頼を達成出来るのである。
「ミラ、これを頼む。」
集めた依頼書を受付でミラに渡す。
「複数の納品依頼ですね。納品物はお持ちですか?」
「ああ。」
依頼書に書かれている納品物を無限倉庫のスキルから取り出す。
複数の依頼を受けたからそれなりの量だ。
「はい、全部揃ってますね。少しお待ち下さい。」
数え終わったので依頼書の手続きや報酬の計算をしている。
無限倉庫の中に頻繁に納品依頼が出される物を蓄えておけば、定められている定期的な依頼も直ぐに終わらせられるのでよく活用していたりする。
「納品依頼はジルさんにとっては楽そうですね。」
報酬を渡しながらミラが言ってくる。
実際ギルドを出なくても依頼を達成出来るのだからその通りである。
「討伐依頼とかで出掛けた時にそう言った物は回収する様にしているからな。」
無限倉庫のスキルは名前の通りに容量の制限が無い。
嵩張る事は無いので役に立ちそうな物は一先ず入れておけば色々使い道があるのだ。
「依頼達成は有り難いですけど、納品依頼以外も受けてもらえるとギルド的には助かるんですけどね。」
ジルの実力はAランクを軽々と超えているとギルドでは評価している。
Dランク帯の討伐依頼で苦労する魔物なんていないと思われるので、溜まっている討伐依頼を引き受けてほしいのが正直なところだ。
「気が向いたら受けてやろう。」
「期待していますね。あら?珍しいですね。」
ミラが少し驚いた表情をしながらジルの後方を見ている。
何が珍しいのかとその視線を追って振り向くとギルドの入り口からこちらに向かってきている者が目に入る。
3メートルは裕にありそうな体格であり、服の下からでも分かる程に筋肉や胸板が凄まじい。
これだけなら冒険者の中にも何人かいるのだが、その者は屈強な身体付きに似合わない服装をしていた。
ピンク色の可愛らしい服を着てフリフリのスカートを履いているのだ。
それだけで無く化粧までしているのだが顔付きは男だと思われる。
「ミラちゃ~ん、久しぶりね。」
笑顔で話しかけてきたその者は男性の声色をしているが口調は女性と言う奇妙な組み合わせをしていた。
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