元魔王様と領主の依頼 2

 昼頃に目覚めたジル達はお腹も空いたので皆で食事処にきていた。


「よく食べるな。」


 ジルが対面で何度もおかわりをして皿を山積みにしているナキナを見て言う。

美味い美味いと言っていくらでも食べれるかの様に料理がナキナの口の中に次々と消えていく。


「仕方が無いのじゃ。満足に食べさせてもらえていなかったんじゃからな。」


 ナキナは既に何度目かも分からないおかわりを頼みながら言う。

奴隷となってから少し衰弱していたのは食事を満足に与えられていなかったのも影響していた様だ。

そしてその経緯についても食べながら聞いた。


「それにしても奴隷になった経緯は思ったよりも情け無い内容だったな。」


「確かになのです。」


 ジルの言葉にシキはうんうんと同意する様に頷いている。

それを見てナキナは居心地悪そうにしながらも現実逃避する様に料理を食べている。


 そもそもナキナが鬼人族の集落を旅立ったのはジル達を探してお礼を言いたかったのと武者修行が理由だった。

ジルが罪滅ぼしとして渡した魔法道具によって鬼人族達は殆ど無尽蔵の戦力を手に入れた事となった。


 それを利用して人族に復讐しようと攻め入ったりはしていないが今では集落が要塞規模の守りとなっているらしい。

なので鬼人族の最高戦力であったナキナが、皆を守る為に集落に常駐する必要が無くなった。


 祖母であるキクナも良い機会だからとずっと同族を守る事に注力していたナキナに外の世界を見てこいと促してくれたらしい。


 それもいずれ鬼人族の役に立つかもしれないのでナキナは更に強くなる為に旅に出たのだ。

そして人族の街に到着してからはジル達の事について調べた。


 どこに住んでいるかも分からないので多くの情報が集まりそうな酒場を選んだ。

呑みながら聞き込みを行なっていると当然酔ってしまい、宿を探している最中に天使の襲撃を受けたらしい。


 思いの外酔っていたナキナは普段と違ってまともに戦えず、あっさりと敗北して気絶させられてしまい、目が覚めたら奴隷の首輪が嵌められていたらしい。

そして奴隷となったナキナはオークションに掛けられて、後は知っての通りである。


「それでこれから共に行動すると言う事についてだが。」


「うむ、ジル殿達の言う事に従うので安心してほしいのじゃ。」


 ジル達に出会う目的は達せられたので、武者修行を兼ねて共に行動して恩返ししていくつもりなのだ。

奴隷から解放してもらう予定だが解放後も言われた事は守ってくれるらしい。


「そう言う話しだったからな。役目としてはシキの護衛と言ったところだな。」


「シキの護衛なのです?」


 自分の話しが出るとは思っていなかった様で首を傾げている。

それにシキには既にライムと言う護衛がいる。


「ああ、まだライムは発展途上で護衛を追加で付けたいと思っていたんだ。」


 護衛としてシキの従魔になっているライムだがその力はまだまだ成長中である。

通常のスライムとは掛け離れた能力を持っているが護衛としての戦闘能力で考えると不安が残る。


 そこでナキナである。

その実力の高さは鬼人族の集落にいた頃に見せてもらった。

戦闘スタイルも近接戦闘なのでサポートにライムが回れば相性も良さそうである。


「それに人の大きさを持つ者が近くにいれば、シキも何かと頼み事が出来るだろう?」


「確かにそうなのです!料理や本を読むのを手伝ってもらえると嬉しいのです!」


 料理について知識を得ても小人のシキには人の扱う調理器具はサイズが合わず使えないので実際に自分で作る事が出来無い。

なので宿屋の看板娘であるリュカにいつも頼んでいた。


 そして大好きな本を読むのも小人のシキではページをめくる行動も大変である。

同じ本を読む時はジルがその役をしてくれていたが、一人では毎回苦労していた。


 なのでナキナがそれらに付き合ってくれるならシキとしては大助かりである。

人の身のサイズの護衛を得ると言う事はシキの行動の幅を大きく広げる事を意味するのだ。


「料理に読書か…。妾は料理経験は無いし、読み書きも苦手なのじゃが…。」


 二人の言葉を聞いて少しだけ自信無さそうに呟くナキナ。

ジルの前世と同じく鬼人族の姫として皆を守る為に強くなる事だけを考えていたので、他の経験が乏しいのだろう。


「大丈夫なのです。シキが教えてあげるのです。」


 シキは自信満々に胸を叩いている。

膨大な知識を有するシキは人への指導の機会が多いのでそれは得意分野なのだ。


「お、お手柔らかに頼むのじゃ。」


 ナキナはその様子を見て少しだけ不安そうにしながらも了承する。

あまり自信が無い様に見えるのは戦いの事しか考えてこなかった故に一種の戦闘狂の様になってしまったので、じっとしているのが苦手なのかもしれない。


「飯を食べ終えたら出掛けるから準備しておいてくれ。」


 主にまだ食べているナキナに向けてジルが言う。

他の者達は既に食べ終えている。


「どこにいくのです?」


「トゥーリのところだ。」


 ジルは早速奴隷解放を行う為にトゥーリの下を尋ねるつもりだ。

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