元魔王様とオークションでの再会 4

 シルエットは小さいが相当な数が見える。


「あれはフライアントなのです。」


 精霊眼で見えた魔物の外見から知識として持っている情報を教える。

名前はフライアントと言って全長1メートルくらいの大きさであり、羽で空を飛ぶ事が出来る巨大な蟻の魔物である。


「ちっ、フライアントか。面倒だが迂回するしかないな。」


 それを聞いたダナンが面倒くさそうな顔をしながら言う。

個々のランクはEランクと低めではあるが、フライアントは群れで行動する魔物であり、そうなった場合の脅威度はBランク~Cランクまでに跳ね上がる。


 空中戦を得意としており性格も好戦的なので非常に厄介な魔物だ。

気付かれれば群単位で襲ってくるだろう。


「どのくらい迂回するんだ?」


「あいつらは群れで行動する習性があるからな。広範囲に展開してる事を考慮して、見つからない様に大きく迂回する事になる。当然その分時間は掛かるだろう。」


 スカイのランクはフライアントよりも高いので簡単に負ける事は無いが数で攻められればランク的にも同等となり無傷で完封とはいかないだろう。

安全に突破したいのなら時間を掛けても避けて通るのが普通だ。


「却下だ。我は少しでも早く着きたい。」


 スカイに乗っての空の旅は普段の魔法の移動と比べるとゆっくりではあるが、その分空からの景色が見れるのでそれなりに楽しめていた。

しかし予定していた時間に更にプラスされるとなると、門が閉まって街に入れない可能性が出てくる。


 今日中にはバイセルの街に到着して宿屋で美味しい食事をとってゆっくりと眠りたい。

その為には迂回すると言う選択肢は存在しない。


「このまま突っ切ると言うのか?フライアントの群れ相手に自殺行為だぞ?」


 その魔物について知っているが故の意見だ。

大量の群れに行動が制限される空で囲まれて襲われるのは非常に危険である。


「安心しろ、我が道を作ってやる。」


「道?」


 ダナンの疑問を受けながらジルはスカイの背中で立ち上がる。

一歩間違えれば上空から落下してしまうが、スカイは止まっているしバランス感覚には自信がある。

それに魔法があるので万が一落ちても問題無い。


「何をする気だ?」


「ここから処理するのだ。足を用意してもらったから護衛くらいは我がしよう。」


 ジルは眼前のフライアントを撃退して直進しようと考えていた。


「下手に刺激すれば群れが一斉に向かってくるんだが、まあいいだろう。この距離ならばスカイも逃げられる。ジルの実力も気になるところだしな。」


 危険な行為ではあるが相棒の速さはよく理解しているのでダナンは許可を出す。

それにダナン自身、ジルの実力は直接見てみたいと思っていた。


「ではさっさと片付けるとしよう。スカイ、頭は少し下げておいた方がいいぞ。」


 契約主でも無いジルの言葉だがスカイは素直に頭を下げる。

ダナンの知り合いだからか、それとも魔物の本能として自分よりも上位の力を持っているジルに逆らわない方がいいと判断したからかは分からない。


 ジルはスカイの背中で片足を引いて少し腰を落とす。

そして腰に下げてある銀月に手を掛ける。

まだ抜いていない銀月が膨大な魔力で魔装され、鞘の入り口から魔力が溢れている。


「抜刀術・断界!」


 ジルは目にも止まらない速さで銀月を抜刀する。

周りの者達はその居合いによって進行方向の空間が揺らぐ様に感じられただろう。


 直後、遠く離れた位置にいるフライアント達の身体が真っ二つに分かれて落ちていく。

魔装された銀月による居合いによって、遠く離れた場所であっても軌道線上にいた魔物達が魔力の斬撃によって斬られたのだ。


「ふむ、半分くらいは仕留めたか。」


 銀月の軌道線上にいたフライアントは全て斬り倒した。

しかし散開していたフライアント達がまだ残っている。


「沢山落ちていってるのです。」


 精霊眼を使って遠くを見ているシキには次々と落下していくフライアント達が見えている。


「わしには正確に見えていないが、こんな距離から仕留めるとはな。」


「造り手が良かったのだろう。」


 ジルは銀月を納刀しながら言う。

実際この刀は凄まじい出来である。

エルダードワーフが手掛けた武器と言うのもあるが、素材も一級品なのでそこら辺の武器とは比較も出来無い。


「明らかにそれだけでは無いだろう。使い手が異常なのだ。」


 ダナンは呆れた様に言う。

どれだけ武器が優れていても今みたいな事を出来る者なんて滅多にいないだろう。


「ジル様、生き残りがきてるのです。」


 遠くを見ながらシキが冷静に報告する。

ジルが近くにいれば魔物の大群が攻めてきても恐れる事は無いので慌てたりはしない。


「大丈夫なのか?」


 ダナンの目にもこちらに向かってくるのが見えている。

仲間を大量に殺されたフライアント達が敵討ちとばかりに一斉にジル達の方に飛んできているのだ。


「問題無い。中級火魔法、フレアバタフライ!」


 ジルの掌から小さな赤い蝶が次々と生み出される。

メラメラと燃える身体を持つ蝶はフライアント達の方向にヒラヒラと飛んでいく。


 そして向かってくるフライアント達にぶつかると、その身体全身が火に包まれて燃え上がりながら落ちていく。

下は森なので燃えるフライアントが落ちれば山火事になってしまうが、落ちる最中に空中でフライアント達を燃やし尽くしている。


 なので下で火が広がる心配は無い。

向かってきた残りのフライアントも全てジルの火魔法によって燃やし尽くされ、進行方向にいた群れは一掃された。


「さて、掃除も終わった事だし向かうとしよう。」


 一仕事終えたジルは再びスカイに座り直して言う。


「…なんと言うか滅茶苦茶だな。」


 実際に目の当たりにしたジルの実力は驚きもあったが凄過ぎて呆れてしまった。

ダナンはスカイに指示を出して再びバイセルの街目指して空の移動を再開させた。

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