元魔王様とオークションでの再会 3
オークションの日がいよいよ明日となったので、ジルはダナンの店を訪ねた。
せっかくの機会なのでシキにも来るかと声を掛けると付いていきたいと言ったのでシキとライムも一緒である。
「おう、待ってたぞ。」
店の扉を開けるとダナンが待ち構えていた。
準備万端と言った様子だ。
「早速向かうのか?」
「ああ、今から向かえば余裕を持って着けるからな。」
そう言って随分と重そうなリュックを背負いながら立ち上がる。
「軽装だが荷物は特に無いのか?」
自分とは逆で何も持っていないジルを見て尋ねる。
それなりに遠出するのだが軽装過ぎる見た目である。
「必要な物は全てスキルの中だ。」
「そうだったな、羨ましい限りだ。」
ジルは無限倉庫のスキルがあるので荷物は全て収納している。
なので普段から何かを持ち歩く事は少ない。
「荷物くらいなら我が持ってやるぞ?」
「そうか?悪いな。」
重そうなリュックをジルのスキルに収納すれば移動も楽になるだろう。
ダナンも身軽になれて感謝している。
「早速出発するぞ。」
「どこに向かうんだ?」
「一先ず街の外だ。気にせず付いてこい。」
そう言って歩き出すのでダナンの後に続く。
門を出て外を少し進み、街から離れたところで立ち止まる。
「よし、ここまでくればいいだろう。」
そう呟いたダナンは慣れた手付きで地面に魔法陣を描き始める。
ジルも使った事があるので見知った物であった。
「召喚魔法か。」
肩に乗っているシキを呼び出した時にジルもこの魔法陣を使用した。
「そうだ、既に契約している魔物を足として使う。」
描いた魔法陣に魔力を注いでいく。
これで移動に適した魔物を呼び出す様だ。
「魔力を糧とし、契約に従い顕現せよ!」
ダナンが詠唱をすると魔法陣が起動して光り出す。
そして魔法陣の上に地面から迫り上がってくる様に魔物の身体が現れていく。
その身体は10メートル近くはありそうで、立派な翼を持っていた。
「ほお、レッサーワイバーンか。」
「おっきいのです!」
ダナンが呼び出したのは空を飛ぶ魔物であった。
これなら陸路を走る馬車と違って、目的地に向けて空を真っ直ぐに進めるので大幅に移動時間を減らせるだろう。
「こいつがいれば移動は楽なもんだ。」
レッサーワイバーンの身体をポンポンと叩きながらダナンが得意気に言う。
この魔物自体がCランクと中々に高い。
それでも名前から分かる様にワイバーンの劣化的な個体である。
別名亜龍とも呼ばれており、ワイバーンよりも身体が小さく火を吐く事も出来ない。
それでも移動だけを考えれば何も問題は無いだろう。
「確かにこれなら一日もあれば充分か。」
「空の旅なのです!」
「わしの後ろに乗ってくれ。」
レッサーワイバーンの背中は思ったよりも広い。
複数人乗れる様に専用の鞍も付けられていた。
「よし、早速出発するぞ。スカイ、頼む。」
「ギャァ!」
ダナンの合図に従う様にスカイと呼ばれたレッサーワイバーンが飛び立つ。
オークションが開かれるバイセルの街を目指して空を進む。
亜龍と呼ばれていてもさすがにスカイの飛ぶ速度はそれなりに速い。
景色がみるみる過ぎ去り移り変わっていく。
「わー、速いのです!」
「そうだろう?レッサーとは言え、スカイはわしの自慢の相棒だ。」
シキの反応を見てダナンも嬉しそうである。
自分の従魔が褒められれば主人として悪い気はしないだろう。
「それにしてもドワーフが従魔を従えているとは意外だったな。」
ドワーフと言えば鍛治が得意な種族と言う印象が強い。
なので従魔を従えるテイマーの様な事をする者は少ないと思っていた。
「そうか?わしの国だと従魔を持つ者は多かったぞ?」
「そうなのか?」
ダナンからの返答が意外であり素直に驚く。
「ああ、なんと言っても鉱石が豊富な国だったからな。自分達で一度に運搬出来る量には限度があるから従魔に協力してもらっていた。」
テイマーが多いと言っても戦闘面では無く、運搬の補助としての役割をしていたらしい。
魔物は人と比べて力があるので重い鉱石の運搬作業みたいな力仕事では充分活躍出来るだろう。
「それでもスカイ程の従魔を従えていた奴は少ないがな。」
従魔とするには例外もあるが基本的には強さを示す必要がある。
ドワーフは鍛治種族だが力はある方だし自分達で作った優秀な武器もある。
なので意外と魔物に力を示す実力は持っている。
高ランクの魔物で無ければドワーフ達でも充分にテイムは可能である。
だがレッサーワイバーンはCランクとそれなりに高ランクの魔物である。
それ程の魔物となると他の魔物の様に簡単にテイムする事は出来無い。
ダナンは他のドワーフと比べても力が強く、テイマーとしての素質があるのかもしれない。
「空を飛んでの運搬ならば捗りそうだな。」
「実際に随分と世話になった。わしにジルの様なスキルがあればもっと楽だったんだがな。」
無限倉庫のスキルについて言っているのだろう。
確かに収納系のスキルを持ってスカイに乗せて移動してもらえば更に多くの運搬が可能となる。
しかし中々に珍しいスキルなので持っている者は少ない。
「ん?」
休憩しながらも順調に上空を進んでいたのだが、シキが前方に何かを発見した。
「どうかしたか?」
「進行方向に魔物を確認したのです。」
精霊眼の能力によって遠くの景色を楽しんでいたら偶然魔物を見つけた。
このまま進めば上空で魔物と遭遇してしまう。
「何?この方向にか?」
シキの言う通り少し進むと小さなシルエットが見えてきたのでダナンは直ぐにスカイを停止させた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます