元魔王様とシキの契約者 9

 模擬戦をする事が決まったジル達は再びギルドを訪れる。


「さすがにこの時間は空いていますね。」


 昼過ぎになると酒場で食事をしている者も少なく、ギルド内はスッキリとしている。


「あれ、ジルさん?」


 冒険者が全くいないので受付からもギルドの入り口がよく見える。

なので入ってきたジル達にミラが気付いた。


「どうかされたんですか?」


 普段とは違って貴族のブリジットがいるからか、受付から出てきて尋ねてくる丁寧な対応だ。


「すみません、少々演習場をお貸し下さいますか?」


「演習場ですか?構いませんが、何をされるのでしょうか?」


 ブリジットの言葉にミラが疑問を浮かべて尋ね返す。


「ジルさんと模擬戦をさせて頂く事になりまして。広々と戦える演習場をお借りしたいのです。」


「えっ?」


 その言葉を聞いたミラはジルの方に視線を向ける。

どうしてそんな話しになっているのかと聞きたそうな表情である。


「そう言う事だ。ちなみに我から言った訳では無いぞ。」


 何を想像しているか分からないが一応訂正しておく。

ブリジットがどうしてもやりたそうだったから引き受けただけだ。


「ふふふ、許可もいただきましたし参りましょうか。」


「ジル様はとっても強いのです。ブリジット、覚悟するといいのです!」


 シキがまるで自分の事の様に自信満々に語っている。

実際に戦うのはジルなのだが勝つと信じて疑っていない。


「それはとても楽しみですね。」


 それを聞いたブリジットは更に嬉しそうな表情を浮かべている。

戦うのが待ちきれないのか足取り軽くシキと一緒に演習場の方に向かっていった。


「ジルさん、どうしてそんな話しになったんですか?」


 シキとブリジットが楽しそうに談笑しながらいなくなったので改めてミラがジルに尋ねてくる。


「我の実力を知りたいからと言っていたな。まあ、食後の軽い運動だ。」


「ええ…。すっごく心配なので、少し見学させてもらってもいいですか?」


 模擬戦見学にミラも加わる事になるみたいだ。

時間帯的に冒険者も少ないので、受付嬢が一人くらいいなくなっても受付は問題無い。


「別に構わないぞ。」


「ジルさん、相手は貴族でしかも御令嬢なのですからやり過ぎには注意して下さいね?怪我とかもあまりさせたら駄目ですよ?」


 演習場に設置されてある魔法道具の効果により、致命傷となる攻撃は魔力を削る様な効果に変換される仕組みだ。

そして魔力が無くなれば魔力切れとなって戦闘続行は不可能となるので、演習場での戦闘は実戦形式で思い切りやれる。


 逆に言えば致命傷とならない攻撃であれば変換される事は無く、しっかり身体にダメージを受けて切り傷や擦り傷が出来てしまう。


 ポーションや魔法で治る程度なら問題無いが、万が一にも貴族の女性を傷者にしてしまえば大事だ。

ミラはその事を心配しているのである。


「向こうが派手にやってこなければ、我も軽く動くくらいにするつもりだ。」


「…食後の運動なんですよね?」


 ミラはジルの呟く不穏な言葉を聞いて再度確認する様に尋ねる。


「ブリジットはそう言っていたが、本心は知らないな。」


「はぁ~、不安です。」


 ミラは心底不安そうにしながらもジルの後に続いて演習場を訪れる。

演習場にはジル達以外にもそれなりの人がいる。


 依頼を受けていない冒険者やギルドの試験官達が訓練として利用しているのだ。

死の危険無く全力で戦えると言う事で演習場は訓練で人気なスポットなのである。


「ん?人だかりが出来ているな。」


 そんな演習場の一角に多くの人が集まっている。

誰かに集まると言うよりかは何かを話し合っている様子だ。


「ブリジット様がいらっしゃったからじゃないですか?」


 確かにその人だかりは遠目にシキとブリジットの方を見ている。

何か始まるのかと手を止めてスペースを開ける者もいるくらいだ。


「貴族としてここの冒険者にも知られていると言う事か。」


 ジルは知らなかったが隣りの領と言ってもブリジットは貴族なのでセダンでも有名なのかもしれない。


「いえ貴族と言うより、騎士による活躍の方だと思いますけど。」


 ミラがそう言ってジルの言葉を訂正する。


「騎士による活躍?」


「え?ジルさん、ひょっとしてブリジット様の事、ご存知無いんですか?」


 よく分かっていない様子のジルを見てミラが驚いている。

ブリジットの騎士としての活躍は冒険者にも結構有名な話しらしい。


「今日会うまではブリジットの事を知らなかったからな。」


 シキと契約していた事も今日知って驚いたばかりだ。


「まさか知らなかったとは。ブリジット様は数々の魔物駆除や盗賊退治で活躍された騎士様なんですよ。ギルドには登録していませんが、冒険者と共に行動する事も多く、人柄も良くて美しい方なので風の姫騎士と呼ばれて人気なんです。」


 長々とブリジットに関してミラが教えてくれた。

貴族でありながらも平民である冒険者と分け隔て無く接する容姿端麗な美女ともなれば、冒険者から人気になるのも当然だろう。


 更に実力がかなり高い事もあり、容姿や戦術から高ランク冒険者の様に二つ名が付けられ、風の姫騎士と呼ばれて冒険者達に讃えられている程の存在らしい。

シキの前契約者はどうやらかなりの有名人の様である。

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