元魔王様と孤児院の貧困事情 10

 アレンは少なくともジルの力は自分と同等以上であると思っている。


「我はDランクだぞ?」


「つまり面倒な依頼の対象外であるDランクまでで止めてるって事だろ?」


 さすがに先程の光景を見せられては、誰であってもDランクだとは思わないだろう。

金には余裕があってランクに拘らない相当な実力者と言う認識がアレンの中では確定しつつあった。


「想像に任せる。それよりも現状についてはどうするんだ?」


 そう言って周りを見回しながら尋ねるジル。

周りでは子供達が美味しそうにジルの持ってきたシチューを食べている。


 アレンが今日依頼の稼ぎを渡しにきたが、孤児院の人数と蓄えが全く無い事を考えると数日も保たないだろう。

早急に金策に走る必要がある。


「いつもならこれで満足に食わせてやれたんだがな。」


 アレンはそう言って困った様に頭をガシガシと掻いている。

領主の援助金が無い事を考えるとアレンが持ってきた分だけでは足りない。

次の援助金を貰えるまで凌げる様に金を稼ぐ必要が出てきた。


「また我が料理を持ってきてもいいが…。」


「いや、いつまでも世話になってはいられねえ。」


 ジルが提案するがアレンはその申し出を直ぐに断った。


「そうか、何か考えはあるのか?」


 金を稼ぐと言ってもCランクの依頼であれば報酬は期待出来るが、日帰りで終わる依頼は少ないかもしれない。

それに稼ぎ全てを孤児院に回せる訳でも無い。

当然だが自分の生活費も稼がなければならないし、冒険者は装備や道具にも金を取られる。


「ああ、ここにくる前にギルドで換金してきたんだが、この時間から珍しく騒がしくてな。何か厄介な依頼でも出されてる可能性がある。」


 今は昼頃であり冒険者の殆どは依頼を受けている最中だ。

なのでこの時間帯はいつもギルドは空いているのである。

それなのに人が多いと言う事は、何か特別な依頼や厄介事が舞い込んだ可能性がある。


 そう言った事は危険や面倒な物が多いが、代わりに大半が高額の依頼になる事が多いので、アレンとしても一攫千金を狙えて丁度いいと考えているのだろう。


「それを受けると言う事か。」


「アレン、気持ちは嬉しいのですがあまり無理をしないで下さい。」


 ジルとアレンの話しを聞いていたアキネスが心配そうに言う。

アレンは孤児院を巣立った冒険者であるが、前はアキネス達に育ててもらっていた孤児だ。

強いと言っても子供達と同じ様に心配するのも当然である。


「我々も街で仕事を探すから、危険な依頼を受ける必要は無いんだぞ?」


 アキネスに続いて神父もそう言ってくる。

アレンが孤児院の皆を家族だと思っている様に、神父やシスター達もアレンの事を家族だと思っているのだ。


「俺がそれなりに強いのは知ってるだろ?危ねえ真似をするつもりはねえ。」


「ですが…。」


 アレンの強さを理解してはいるが、それでも心配になってしまうのだ。

ランクが上がれば当然依頼の内容も厄介になってくるのは誰でも分かる事だ。


 戦う魔物も比例して危険度が増していく。

アレンはソロの冒険者なので万が一を考えると心配は尽きないだろう。


「ならば我も同行してやろう。」


「ジル殿がですか?」


 突然のジルの提案に神父やシスター達が驚きの表情を見せる。

それはアレンも同じである。


「何を考えていやがる?」


「高額の報酬ならば冒険者としては気になるだろう?当然報酬は半分貰う事にするが、我を連れていくと稼ぎが上がるぞ?」


 ジルとしては異世界通販のスキルがあるので金は幾らあっても困る事は無い。

大金を稼げる機会があるならば、引き受けてもいいと思っている。


「手分けして大量に狩れるからか?」


「それもあるが収納系のスキルを持っているからな。倒した魔物の運搬は我が担ってやろう。」


 そう言うとアレンが驚愕の表情を浮かべる。

ジルの提案は冒険者にとっては破格の提案であった。

冒険者が魔物を倒したとしても、運搬の事を考えるとそのまま持って帰れる訳では無い。


 普通ならばその魔物の希少な部位や魔石等の持ち運びが簡単で高価な物を優先する事になる。

なので他の素材や肉等は諦めるしかない。


 しかし収納系のスキルを本人やパーティーメンバーが持っていれば話しは変わってくる。

容量にもよるが諦めていた他の素材も持ち帰る事が可能となるのだ。


 そうなれば稼ぎは当然大きく変わってくる。

本来ならば諦める素材を持ち帰る事が出来るので、収納系のスキルを持つ者の存在は貴重だ。


 それは本人も分かっているので、換金時に自分だけ追加で更に金を要求するのはよくある事だ。

それをジルは折半でいいと言っている。

冒険者的に見ればあり得ない提案と言える。


「俺としては助かるがいいのか?」


 金を稼ぎたい現状としては是非引き受けてもらいたい魅力的な提案である。


「ああ、乗りかかった船だ。最後まで付き合ってやろう。」


 ジルとしては魔物を運ぶくらい大した苦労は無いのでどうと言う事は無い。

換金時の半分を得られるだけでも充分だと感じていた。

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