元魔王様と孤児院の貧困事情 9

「それよりあんたも、そのなりからすると冒険者か?」


 アレンがジルの外見を見ながら尋ねてくる。

普段から帯剣している訳でも無く、人族的にも華奢な部類なので冒険者に見られない事が多いがアレンには分かった様だ。


「一応な。」


 身分証目的で登録しただけで、特に積極的に依頼を受けてはいないが冒険者には違い無い。


「孤児院に何か用でもあったのか?」


 純粋な疑問からアレンが尋ねてくる。

普通の冒険者であれば孤児院に用事なんて無いだろう。


「いや、特に用があってきた訳では無い。毎日食うのに困っていると聞いたから、料理を提供していただけだ。」


 街中でベルが盗難する現場に立ち会わなければ自分から来る事は無かっただろう。


「食うのに困ってる?どう言う事だ?」


 ジルの言葉の後半の台詞に疑問を抱いたアレンが神父達に尋ねる。

孤児院には領主から援助金がある事は当然卒業生であるアレンも知っている。


 その分だけでも贅沢をしなければ全員が食べていける分くらいはある。

アレンや他の卒業した者達の稼ぎは、たまに美味い食事を皆に食べさせてやれる様にと言う意味合いの金なのだ。


 なのでそもそも領主からの援助金があれば、それだけでも食うに困ると言う状況にはならない筈なのである。

だからこそアレンはそんな状況になっている事に疑問を抱いた。


「アレンにも話しておかなければいけないな。」


 アレンはどうやらまだ説明を受けていない様である。

昨日ジルが聞いた話しを神父やシスターがアレンにも話し聞かせる。


「と言う事なのだ。現状孤児院の蓄えは底を尽きてしまった状態だ。」


 神父はアレンに食べるのに困っている理由を申し訳無さそうに話した。

アレンから渡された金も少なくない量があったので、それを全て消費してしまった事に罪悪感を覚えているのだ。


「ちっ、そう言う事かよ。ガキのくせに俺達の真似しようと…、馬鹿な事しやがって。」


 話しを聞き終えたアレンが舌打ちをしながら呟く。

その子供を責めていると言うよりは悔やんでいる様な雰囲気である。


 無茶をした子供もアレンと同じ孤児院の者なので、家族同然だとアレンは思っている。

そんな家族が命を落としたかもしれないと聞けば悲しくもなる。


「アレン、申し訳ありません。蓄えの中には貴方が渡してきたお金もありましたのに。」


 神父に続いてアキネスも頭を下げる。

大人達が気付いていれば、そんな無謀な事をさせずに止められていた。

結果、失う物の方が多い現状となってしまった。


「仕方ねえだろ。それに金ならまた稼いでくればいいだけの話しだ。」


 神父やシスター達に謝られている当の本人は特に気にした様子は無い。

金についてはまた自分が稼げばいいだけだと考えており、本当に何とも思っていないのだ。


 ジルから見てもそれなりに強そうだと感じたので、アレンは高ランクの冒険者なのかもしれない。

それならば依頼の報酬も高いので、金を稼ぐのも比較的難しくはなさそうだ。


「依頼か?」


 冒険者が手っ取り早く稼ぐとなればギルドで依頼を受ける事だろう。


「ああ、これでもCランク冒険者だからな。稼ぎはそれなりだ。」


「Cランクか、先程の攻撃力ならばもっと上かと思ったのだが。」


 ジルはもっと高いランクを予想していたので思ったよりも低いと言った感想だ。

それでも世間一般的にはCランクでも充分高ランクと言える部類だ。


 ジルが高ランクだと予想したのは先程のアレンの身のこなしを見たからだ。

転生してから見た人族の中では格段に良い動きをしていたので、少なくともBランクはあると思った。


「意図して上げてる訳じゃねえからな。孤児院全員に美味いもん食わせるくらい稼ぐとなると、Cランククラスの報酬がねえと足りねえんだ。」


 どうやらアレンもジルと同じ部類の様である。

冒険者は高ランクになる程に厄介な依頼を頼まれる事も増えてくる。


 そのラインがCランクなのである。

CランクとDランクの報酬にはかなりの差が付いてくるのだが理由はそれである。

本来ならば孤児院から長期的に離れる依頼等は受けたく無いのだろう。


 それでも孤児院全員分の食費を稼ぐとなるとDランクの報酬では少な過ぎる。

なので比較的厄介な依頼が少ないCランクまで上げたのだ。


「成る程、本来なら実力はもっと上か。」


 ジルもランクで言えばDランクな訳が無い。

ミラやギルドマスターであるエルロッドが意図を組んでくれている結果だ。


「ジルって言ったか?そう言うお前こそ相当な強さだろ?」


 アレンもジルの実力をかなり評価している様だ。

ランク的にはCだが自分の攻撃力には自信があった。

それをジルに軽々と受け止められてしまい、実力を見せ付けられたので、そう感じるのも当然の事であった。

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