元魔王様と孤児院の貧困事情 6

 アキネスから詳しく話しを聞くと、直接その場にいた訳では無く、居合わせた子供達から聞いた話しを教えてくれた。

年長組の一人の子供が、領主からの援助金を全て持ち出したらしい。


 窃盗行為等では無く、そのお金を元手に稼ぐ為だと言っていたらしい。

その子供は援助金で装備を整えて、魔物を倒してお金に変えようとした様だ。


 確かにギルドで依頼を受けたりしなくても、魔物の素材は様々な場所で売買出来る。

しかしそれは討伐して持ち帰れればと言う話しだ。


 装備を少し整えたくらいでは、戦闘経験の浅い子供が魔物と互角に戦えるまでにはならないだろう。

実際にその子供は一週間も帰ってきていない様で、持ち逃げで無ければ返り討ちにあった可能性が濃厚である。


「成る程、一攫千金を夢見て失敗したと言う事か。」


 一緒に住んでいる者達を想っての行動だったのかもしれないが、結果的には皆に苦しい思いをさせてしまっているのが現状だ。


 冒険者とはハイリスクハイリターンの職業なのだ。

状況判断や事前準備のあまさが、己の死へと直結してしまうのである。


「おそらくは…。なので子供達に満足に食べさせる事も出来ていません。孤児院を巣立っていった子達が時々稼ぎを入れてくれていたので、その蓄えで繋いできたのですが、それも数日前には尽きてしまいました。」


 今は大人達が街へ仕事を探しにいったり、大人達の食料をギリギリまで減らして子供達に少しでも多く分け与えて凌いでいるらしい。


 それも限界が近い様で、領主であるトゥーリの下に援助金の前借りを懇願しにいこうか迷っているくらいの様だ。

トゥーリであれば気にしなさそうだが、貴族の中には対価を要求する者もいるので、貴族への願い事は慎重にならなければならない。


 そんなギリギリのタイミングでジルが現れたので文字通り命を救われた形となった。

なので皆を代表してアキネスはとても感謝していた。


「それでこの状況だったんだな。」


「正直に言うとジル様の助けがなければ餓死者を出していたかもしれません。本当にありがとうございました。」


 子供達はまだしも、このままではアキネスは危なかったかもしれない。


「成り行きだから気にするな。一先ず今日は手持ちの食べ物も無くなったので帰るとしよう。」


 既に無限倉庫のスキルに入れていた料理は全て出し切った。

これ以上求められても出す事は出来無い。


「お構いも出来ずに申し訳ありません。」


 そう言ってアキネスが頭を下げてくる。

食べ物を恵まれただけで何も返す事が出来無い。

アキネスに出来るのはお礼を言う事くらいだ。


「お兄ちゃん帰っちゃうの?」


 お腹いっぱいになった子供達がジルやアキネスの周りに集まってきた。

その中にいた街で出会った女の子が尋ねてきた。


「ああ、だがまた明日料理を持ってきてやろう。」


「本当!」


 ジルの言葉に女の子は表情をパァーッと明るくさせる。

明日も今日みたいな美味しい料理が食べられると思って喜んでいるのだろう。

周りの子供達も同様に喜んでいる。


「だから明日は大人しくここで待っているんだぞ?」


「うん!」


 女の子は満面の笑みで頷いていた。

周りの子供達も明日を楽しみにしてくれている様だ。

約一名、少し離れた場所で話しを聞いていた男の子だけが、少し居心地悪そうにしていた。


「明日も…。宜しいのですか?」


 女の子との会話を横で聞いていたアキネスが申し訳無さそうに尋ねてくる。

まさか明日も食料を融通してくれるとは思っていなかったのだろう。


「ああ、今は暇だし金もそれなりにあるから気にするな。」


 大きな収入が定期的にあったので蓄えは意外とある。

孤児院に食料の提供をするくらいでは、ジルの財布は大してダメージを受けないのだ。


「そうでしたか。ですが無理はなさらないで下さい。ご好意は大変助かるのですが、お返し出来る物もありませんし、ジル様の負担にはなりたくありませんから。」


 自分達の為にお金を使ってくれた結果、ジルが辛い思いをするなんて事にはなってほしく無い。

アキネスとしては、自分自身を一番に気遣ってほしい様である。


「分かっている、無理の無い範囲での援助だ。シキ、引き上げるぞ。」


「はーいなのです。」


 子供達と一緒になって食べていたシキが戻ってくる。

愛らしい見た目から既に子供達に大人気の様で、離れていくシキを残念そうに見送っている子も多かった。

アキネスや子供達に沢山お礼を言われ、皆に見送られて孤児院を後にする。


「ジル様、何か目的があって助けたのです?」


 帰り道に孤児院から遠ざかったのを見計らってシキが尋ねてきた。

子供達がいる前では要らぬ警戒を招かない様に黙っていたみたいだ。


「我は善意だけでは助けなそうか?」


「そ、そんな事は言ってないのです!意地悪しないでほしいのです!」


 ジルの意地悪な聞き方に少し慌てるシキ。

当然そんなつもりで質問した訳では無い。


「殆ど善意みたいなものだな。我があまり子供の頃から辛い思いはさせたくないと個人的に思っているのもある。」


 子供は国の未来の財産である。

大人が年老いていけば次に国を支えるのはその子供達となるのだ。

そんな子供達の未来の為に、すくすくと育てる環境を用意するのも大人の役目だろう。


「それに恩を感じてくれたなら、いつか恩返しをしてくれるかもしれないだろ?」


 特に何か求めての行為では無かった。

それでも良い行いと言うのは巡ってくる事もある。


「恩返しなのです?」


「我が何か頼み事をするかもしれないだろう?」


 恩を感じてくれたのなら何か頼み事をした際に心良く引き受けてくれるかもしれない。

と言っても無理な頼み事をするつもりは無い。


「子供達にするのです?想像が付かないのです。」


「そう言う事もあるかもしれないと言う話しだ。」


 元魔王で人族に転生したジルだが、大抵の事は一人で出来てしまうと言うのがシキの印象だ。

なので子供達に頼み事をする姿が全く想像出来無いシキであった。

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