元魔王様と孤児院の貧困事情 5

 子供達だけで無く、シスターや奥に潜んでいた年長組の子供達も一緒に付いて出てくる。

さすがに小さな子供達だけにはさせられないのだろう。


「あの、食料をお持ちの様には見えないのですが…。」


 ジルの姿や外の様子を見ても、それらしい荷物が見当たらないので、シスターが戸惑いながら尋ねてくる。


「心配しなくてもしっかりと持ってきている。」


 ジルはそう言って無限倉庫のスキルから大きめのテーブルを取り出す。

その様子を見てシスターや子供達が驚くいつもの流れが繰り広げられる。


 だがそれに構う事無く、ジルは先程購入したフライドポテトや宿でリュカに作ってもらった分をその上に大量に並べていく。


「美味しそう!」


「食べてもいいの?」


 それを見た子供達が直ぐにでも食べたいのか周りに集まっていく。

よほどお腹が減っているのか涎を垂らしている子もいる。


「遠慮せずに食べるといい。」


 ジルが許可を出すと子供達が一斉にフライドポテトを手に取って食べ始める。

まだまだ小さな子供ばかりなのに我先にと食べる者ばかりで、まるでフライドポテトをめぐる戦場の様だ。


 少し警戒気味だった年長組も、美味しい美味しいと食べる子供達を見て我慢出来無くなって一緒に食べている。

全員がその味に大満足の様子で、中には食べながら泣いている子もいた。


「これだけの料理を頂けるなんて…。本当にありがとうございます。」


 子供達の様子を見てシスターも感謝している。


「少しは信用出来たか?」


「申し訳ありませんでした。そう言った提案は過去にも何度かありまして…。対価に私や子供達を要求されたものですから。」


 シスターが直ぐに信じられない原因はそれであった。

孤児院の困り事と言えばそう言った類と言うのは簡単に想像出来る。


 美人なシスターやお目当ての孤児を孤児院から引き取りたいと考える者は、そう言った提案をしてくる事が多かったのだと言う。


「それは警戒されても仕方が無いな。」


 まさかそんな事が頻繁にあったとはジルも考え付かなかった。

善意だけでの提案だったのだが、それが逆に怪しくなってしまった様だ。


「シスターも食べてくるといい。」


「い、いえ…、私はお腹が減っていませんから…。子供達にお腹いっぱい食べさせてあげたいのです。」


 ジルの言葉をシスターがそう言って遠慮する。

前半が嘘だと言うのは簡単に分かるが、後半の気持ちも本心なのだろう。

自分が食べる分を減らしてでも子供達に食べさせてあげたいと思っているのだ。


「さすがに無理があるだろ。心配しなくても料理ならまだある。数人増えても問題は無い。」


「…すみません、ありがとうございます。」


 まだ在庫がある事を教えてやると、シスターは頭を下げて子供達の下に向かっていった。

既に食べていた子供達に勧められるままに食べ、その美味しさにシスターも涙を流していた。


 そして美味しい食べ物に感謝しているのか、シスターは祈る様に食べていた。

さすがに大人数で食べているので、大量に出しても減る速度が凄まじい。


 無くなる前に新しいのを追加で出してやるが、何度か繰り返していると最終的には無限倉庫の中にある料理が全部無くなってしまった。


「ふむ、これはフライドポテト以外にも料理を蓄えておいた方がいいな。」


 無限倉庫内は時間の経過が無いので、料理を仕舞っておいても出来立てのままで保存しておける。

しかし普段から宿屋で食事をしたり屋台街が宿屋から近い事もあり、料理を保存しておく必要が特に無かった。


 なので料理の蓄えが大量にある訳ではない。

とは言ってもそれなりの量のフライドポテトを出してやったので、ある程度お腹は満たしてやれただろう。


「すみません、放っておいてしまい。とても美味しかったです。そして申し遅れました、私は孤児院でシスターをしているアキネスと申します。」


 暫く食べてある程度満足したのか、シスターが戻ってきて自己紹介をしてくれた。

しかし子供達はまだ食べている様で、そんな小さな身体のどこにそれだけの量が入るのか疑問である。


「我はジルだ。こちらに構わずまだ食べていてもいいんだぞ?」


 テーブルの上にはまだ料理が残っている。

空腹だったのだから、まだまだ食べられるであろう。


「いえ、これ以上お待たせする訳にはいきませんから。それにお聞きしたい事があるのですよね?」


 この場にいる唯一の大人として、これ以上ジルを放置してはおけないのだろう。


「ああ、孤児院には領主から少なからず援助がある筈だろう?どうしてこんなに食うのに困っているんだ?」


 それがジルの気になっていた点である。

元魔王であった頃だが、魔国フュデスにも孤児院と言うものはあった。

孤児院には国や土地を納める領主から少なからず援助がある筈なのである。


 この街の領主であるトゥーリの事を知っているジルとしては、それなりにまともな者だと分かっているので、援助をしていないとは考えにくかった。


「はい、勿論頂いてはいます。ですが今月分のお金はもう無くなってしまいました。」


 お金は貰っている様だが、何やら事情がある様だった。

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