元魔王様と孤児院の貧困事情 2

 取り返そうと思っていた商品だったが、既に食べられていてはそれも難しい。


「手遅れか。」


 手を付けられてしまっては諦めるしかない。

ジルが目の前の男の子に視線を戻すと身体をビクッと震わせている。


「あ、あいつらは関係無い!俺が一人でやったんだ!」


 まだ何も言っていないが男の子は少しだけ怯みつつもジルにそう言ってきた。


「そう言われてもな。盗んだ物を食べているのは後ろの子供だろう?」


「俺が渡したんだ!連れていくなら俺一人にしろ!俺が全部悪いんだ!」


 一応悪い事をしたと言う自覚はある様で、責任は一人で背負おうとしている。

後ろの子供達はどう見ても男の子よりも歳下に見えるので、一緒に連れて行かれない様に庇っているのだろう。


「ジル様、おそらくこの子達は孤児だと思うのです。」


「その様だな。」


 全員に身に付けているのはボロい服である。

更に満足に食事にあり付けていないのか、子供とは言ってもかなり細く見える。


「先ずは話し合うとしよう。」


 そう言って少し手に力を入れると、握っていた木の棒がバキッバキッと音を立てて割れて折れる。


「なっ!」


 男の子はジルの凄まじい力を見て驚愕している。

だがそれを見ても逃げ出さずに背にいる子供達を庇う様に折れた木の棒をジルに向かって構えている。

中々に根性がある子供の様だ。


「一旦それを下ろせ。直ぐにどうこうするつもりは無い。」


「だ、騙されないぞ!大人は信用出来無い!」


 孤児とは様々な理由があるが、大抵は大人に見捨てられた存在だ。

そんな孤児であれば大人の言う事を簡単に信じられなくなっても仕方が無いだろう。


「ふむ、ならば少し黙って見ていろ。」


 ジルはそう言って後ろの子供達に近付いていく。


「なっ!く、くるな!」


「上級重力魔法、ウエイトフィールド!」


 折れた木の棒で殴り掛かってきた男の子に魔法を使う。

周囲の一定範囲の重力を自在に操る重力魔法である。


「わわっ!?」


 ジルの魔法により男の子は空中に浮かべられる。

その時に危ないので木の棒を逆に重くして手放させるのも忘れない。


「や、やめろ、近付くな!」


 男の子はそう言って空中でジタバタともがいているが、遠距離攻撃の手段を持たなければ完全に無力化されたのと同義である。


 ジルは悠々と木箱の裏にいる子供達に近付いていく。

そこには小さな女の子が三人いた。

既にフライドポテトは食べ終えた様であり、近付いてきたジルを見て怯えていた。


「じ、ジル様まさか…なのです。」


 シキは何を思ったのか恐る恐ると言った様子で意味深な台詞を呟く。


「お前は我をなんだと思っている。」


 その表情から何か酷い事をしそうだと言う考えを読み取ったジルは、呆れた目でシキを見返しながら言う。

ジルは無限倉庫のスキルを使って、その手に大きな物を取り出す。

突然現れた物に子供達がビクッと身体を震わせている。


「あれくらいでは食べ足りないだろう。これも食べるといい。」


 そう言ってジルが木箱の上に置いたのは、無限倉庫から取り出した山盛りのフライドポテトが乗せられた皿であった。

いつでも食べたい時に食べられる様に、リュカに作ってもらった物である。

それを見て空中に浮かべられている男の子も驚いていた。


「いいの?」


「子供が遠慮をするな。」


 聞いてきた女の子の頭を撫でながら言う。

するとパァーッと顔を明るくさせてフライドポテトを食べ始めた。

凄い勢いで皿の上のフライドポテトが無くなっていく。

余程お腹が減っていたのだろう。


「さて、誤解は解けたか?」


 ジルはそう言って重力魔法を解除して男の子を地面に下ろしてやる。


「い、一体どこから…。」


 女の子達は気にしていないが突然山盛りのフライドポテトを乗せた皿を取り出したジルを見て男の子は驚いている。

今までも何度も驚かれているが、これが普通の反応である。


「それよりも誤解が解けたなら尋ねたいんだが…、いや、お前も腹が減っているんだろう。取り敢えず食べておけ。」


 女の子達が美味しそうにフライドポテトを食べている姿を見せられて、涎を垂らしそうになっている。

先程も一人だけ食べていなかったので、男の子も腹を空かしているのだろう。


「い、いいのか?」


「ああ、好きなだけ食べろ。」


 許可を出すと皿に飛び付く勢いでフライドポテトを食べ始めた。

山盛りだったのだが既に半分近くが無くなりそうであり、四人共食べるスピードが凄まじい。


「シキ、我は店に戻って説明をしてくる。その間逃げない様に見張っておいてくれ。」


「了解なのです!」


 子供達に変な警戒心を与えない様に真契約による恩恵の意思疎通を使って声に出さずにやり取りをする。

追加で木箱の上に山盛りの皿を取り出し、果汁水も幾つか置いておく。

これならば戻るまでに保つだろう。


「こらこら、もっと落ち着いて食べるのです。誰も取ったりしないのです。あああ!ちゃんと飲まないと喉に詰まらせるのです!」


 ジルが遠ざかる後ろから、そんなシキの声が聞こえてくる。

我先にと急いで食べる子供達の世話をしてくれている様だ。


 と言ってもその場を去る直前にシキが子供達と一緒に食べているのは見逃さなかった。

屋台でフライドポテトの食べ比べをする直前だったので、シキも食べたかったのだろう。


 掌サイズのシキが一緒に食べても微々たる量しか減りはしない。

一応世話もしてくれている様なので、そのまま一緒に食べさせておく事にした。

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