14章

元魔王様と孤児院の貧困事情 1

 フライドポテトが宿屋のメニューに加わってから、絶品芋料理が食べられる宿屋として話題となり、宿泊客や食事客が連日殺到する事になった。


 これだけ人気になるのは予想外であり、女将やリュカにとってはもちろん嬉しい事であった。

しかしそれに比例して忙しさも凄まじので、二人だけでは限界だと感じたらしい。


 なので一時的に女将の知り合いやリュカの友達をフライドポテトのレシピを教える代わりとして雇ったのだ。

ジルとしても美味い食べ物が広まれば、自分にとっても都合が良いので快く承諾しておいた。


 すると発案者と言う事で売り上げのマージンから一部を支払うと言われた。

別にジルが考えた訳でも無い異世界の料理なので、その提案は断ったのだが、フライドポテトでかなりの売り上げを出したらしく、押し付けられる形で受け取らされた。


 それは他の店も同じであり、女将が集めてから一緒に渡してくれるらしい。

一つ一つからの取り分は少ないが、集まると中々の額になるので、ジルは安定した収入源を得た事で小金持ちと言った感じになっていた。


「しかし広まるのが早かったな。」


「主食の一つをあれだけ美味しく食べられるとなれば、皆興味を持つのは当然なのです。」


 そう言う二人の目の前には、沢山の屋台が並んでいる。

セダンの街の一角にある屋台街である。

様々な食べ物を売っており、食べ歩き出来る人気の場所なのだがフライドポテトを売っている店がかなり多い。


 女将達がフライドポテトについてのレシピを公開したので、一気に街全体で流行ったのである。

と言っても全てが全く同じフライドポテトでは無く、塩以外の味、売り出す量、一つ一つの形等店毎に変化を付けているので、どの店もそれなりに人を集めている。


「これは新たなフライドポテトに出会える予感がするのです!」


 女将達から伝えられたメニューは、異世界のフライドポテトのレシピを教えた時のままの状態なので既に完成された料理である。


 女将達の宿屋は平民向けなので、低予算で食べられる様に客に出している為、利益を出したい者達は新たなフライドポテトを模索している。

教えられたレシピのまま高い値段で売り出しても、客は宿屋に流れるからだ。


 なので屋台で売られるフライドポテトは千差万別と言った感じなので、違ったフライドポテトに出会えるかもとシキは期待しているのだ。


「ふむ、夕食までには時間があるし、食べ比べでもするか?」


「賛成なのです!」


 そこら中から良い匂いが漂ってくるので、しっかり昼食を取ってきていても食欲を刺激されてしまうのは仕方が無い。

早速近場にある屋台の一つに並ぶ事にする。


「あ、こらガキ!泥棒だ!」


 順番を待っていると近くの屋台からそんな声が聞こえてきた。

声のした方を見ると何件か隣りの屋台の店主が怒鳴っている。


 その怒鳴っている方向には、全速力で屋台から遠ざかっていく子供の後ろ姿が見える。

その手には屋台に並んでいる入れ物が握られている。

中々に素早い様で、店員の一人が追い掛けているが距離は開く一方だ。


「近くに衛兵もいないみたいだし、一応捕まえておくか。食べ比べ前の腹ごなしだ。」


「早く片付けて食べ比べなのです。」


 冒険者の中には街を警備する衛兵よりも強い者は沢山いる。

そう言った者達は衛兵が不足している時に治安維持の助っ人として駆り出される事があったりもする。


 依頼を受けていなくても日常で悪事を目撃したら、自分の力量と相談の上でなるべく解決する様に動いてほしいとギルド側からも頼まれているので早速向かう。


「泥棒を捕まえるのを代わってやろう。その様子ではきついだろう?」


 ジルは一瞬で子供を追っていた店員に追い付いて尋ねる。

既に息切れをしておりフラフラの状態であった。


「ぜぇぜぇ、た、助かる…。すまないが…頼む…はぁはぁ。」


「任されよう。」


 遠目だが裏路地に曲がっていく子供の姿が見えた。

騒ぎが大きくなればそれだけ衛兵や冒険者を集める事になるので、それを考慮しての事だろう。

ジルもその後を追って裏路地に入り、そのまま突き進んでいく。


 子供にしては素早いと言っても、さすがにジルとは比べ物にならず距離はどんどん縮まっていく。

道を曲がったのが見えたので同じく後を追って曲がる。


「やぁ!」


 すると追っていた子供がジルに向かって木の棒を振りかぶって殴り掛かってきた。

不意打ちのつもりだったのかもしれないが、ジルはそれを難無く手で掴み止める。


「くっ、離せ!」


 そう言って目の前にいる子供が振り解こうとするが、ジルの腕力の前ではピクリとも動かない。

今は正面から見えているので盗んだ者が人族の男の子なのが分かった。


「ん?盗んだ物はどこだ?」


 男の子は両手で木の棒を持って振り解こうと頑張っているので、盗んだフライドポテトの入った入れ物を持っていない。


「ジル様、後ろなのです。」


 そう言ってシキが指差した方を見ると、男の子の少し後ろの方にある木箱に隠れる様にして複数の子供達が見える。

こそこそと動いているので何をしているのかと思っていると、店から盗まれたフライドポテトをパクパクと食べていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る