11章

元魔王様と一流の鍛治師 1

 鬼人族達の集落を後にしたジル達は、来た時と同じく魔法による爆速移動によって、直ぐにセダンの街付近に到着する事が出来た。


 本来ならば道中を楽しむ目的で歩いて帰る予定だった。

来る時も魔法を使っての移動だったので、道中を見る暇も無かったからだ。


 しかし鬼人族の件に偶然とは言え関わった事により、歩いて帰っては依頼の期限に間に合わなくなってしまった。

幾分か余裕はあったが、また次の機会にすればいいと話し合った結果だ。


「久々に帰ってきたのです!」


 セダンの街に到着するなり、シキが身体を大きく伸ばしながら言う。


「久々と言う程か?一週間も掛かってないぞ?」


「ジル様と出会ってからは、街から出た事が無かったのでそう感じてしまうのです。」


 確かに召喚魔法でどこかにいたシキを呼び出してからは、ずっとセダンの街の中で過ごしていた。

そう考えると今回の遠出は、ジルとシキが新たに契約してからの初めてのものだ。


「シキは引きこもりだからな。」


「好きで引きこもっている訳では無いのです。戦闘能力が全く無いから受け入れるしかないのです。」


 シキとしても知識を得る為に様々な場所にいきたいと考える事はある。

だが精霊としての能力的に自分で戦う事が出来無い。


 魔王時代に契約した頃から、一人で自由に外出したりは難しく誰かに付き添ってもらっていた印象だ。

そんなシキを見てライムがプルプルと揺れて自分の存在をアピールする。


「分かっているのです。ライムが強くなっていけば、シキの行動範囲も広がるのです。頑張って強くなるのです!」


 ライムはプルプルと揺れており、任せてほしいとでも言っている様だ。

多種多様のスキルを覚えていけば、そうなるのも遠い未来では無いだろう。


「今回はコカトリスからスキルを得られたし上々の成果だったな。」


 元々持っていた変化吸収、ジルの魔法道具であるスキル収納本で覚えた分裂、これ以外にも威圧と石化のスキルを新たに覚える事が出来た。


「オーガからスキルを得られなかったのが残念なのです。」


 今回の戦闘ではオーガ種を多く倒せたので、ライムに結構吸収させる事が出来た。

しかし新たなスキルの取得は無し。

これはオーガ種は基本的にスキルを所持しておらず、オーガキングも威圧しかスキルを覚えていなかったからだ。


 ライムは吸収する時に対象が覚えているスキルをランダムに一つ覚えられる。

なので相手が覚えていなければ、そもそも覚える事は出来無いのである。


「その代わりに魔力量はそれなりに上昇しているから気にするな。」


 吸収はスキルを覚えるだけでは無く、自身の魔力量も増やす事が出来る。

とは言っても今でようやく普通のスライム程度の魔力量だ。

複数のオーガ種だけで無くオーガキングまでいたのに、魔力量の上昇率はそこまで多く無かった。


 無限に進化するエボリューションスライムなのだが、育てるのは大変と言う事だ。

スキルは優秀なので魔力量がある程度伸びれば、かなり護衛として使える様になる筈なので気長に育てる事にした。


「さすがにこの時間は空いているな。」


「昼過ぎは皆出掛けているのです。」


 早速ギルドに依頼の報告をしにきた。

時間帯が昼過ぎと言う事もあり、ギルド内はとても人が少ない。

いつもの受付であるミラの下に向かっていくが、書類仕事が忙しいのか気付いていない。


「久しいなミラよ。」


「ただいまなのです!」


 受付に到着したジルとシキが声を掛けると、ミラは顔をガバッと上げた。

そして慌てた様に椅子をガッタンと大きく揺らしながら立ち上がる。


「皆さん!よかった、無事だったんですね!」


 ミラはつい大きな声を出してしまい、ギルド内にいる者達の注目を集めてしまう。

それに気付いてペコペコと頭を下げながら恥ずかしそうに座る。


「と、取り敢えず無事にお帰りになられて安心しました~。」


 ミラは心底安心したと言った様子で溜め息を吐きながら言う。

一冒険者の心配をしているとすれば過剰な反応である。


「大袈裟だな。距離を考えれば少し早いくらいだぞ?」


 鬼人族の集落に数日滞在したが、ジルの魔法によって往復の移動時間は1時間程とかなり短縮された。

なので馬車で移動した合計時間と比較すれば、むしろ早く帰ってきたくらいなのだ。


「それは分かっているのですが、目的が目的でしたし。万が一ですが返り討ちにされてしまったのではと、ずっと心配していたんですから。」


 出発前にジルとシキが白々しいやり取りをしていたのをミラは知っている。

なのでオークの依頼書を受けていったが、本来の目的であるコカトリスにやられたのではと、ミラはずっと気が気では無かったのだ。

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