元魔王様と最強のメイド達 10
翌日は見事に殆どの者が酔い潰れ、出発するジル達を見送りに来れたのはキクナだけだった。
「申し訳ありません、見送りが私だけだなんて。本来ならば全員で見送らなければいけませんのに。」
そう言ってキクナが頭を下げる。
朝早いと言う事もあるが、数時間前まで宴で皆が騒いでいたのだ。
酔って寝ていても仕方が無いだろう。
「見送りはいいと言ったろう?昨日充分に感謝は貰った。」
事前に見送りは断っていたのだが、キクナはそれをよしとしなかった。
何がなんでも自分だけは見送るつもりでいた。
鬼人族を救ってくれた盟友であり、一族が仕えてきたただ一人の主君なのだから。
「我々としては足りないくらいですよ。」
「お前達に付き合っていては、いつまでも出発出来んからな。」
ここで皆が起きるのを待てば、また感謝され続けてしまい、いつ出発出来るか分かったものではない。
「ジル様、いえ魔王様。この度は本当にありがとうございました。」
キクナはそう言って頭を深々と下げる。
今回のは庇護を求めた鬼人族としての魔王に対する礼だ。
魔王が対価を求めた事なんて無いので、今まではどの種族も最大限の感謝を述べ頭を下げてきた。
キクナも父がしていた様にそれに倣う。
「キクナよ。」
「はい、なんでしょう?」
キクナはジルに呼ばれて顔を上げる。
「これを渡しておこう。」
そう言って無限倉庫のスキルからジルが取り出したのは、土色の球体であった。
見た目からはこれが何か判断が出来無い。
「これは?」
「ジル様!?それってシキが封印項目に仕分けた魔法道具なのです!?」
受け取ったキクナは分からなかったが、シキには見覚えがあった。
無限倉庫内の物の整理をしたのはシキだ。
現在使っても大丈夫そうな物とそうでは無い物が転生したばかりのジルには分からなかったので、シキに仕分けてもらった。
そして今取り出した物は後者で分類した物だ。
「ああ、我には必要無さそうだからな。」
封印項目に分けられていたのは理解している。
だがこのままスキルの肥やしになるよりは、必要とする者に使ってほしかった。
「でもそれを世に解き放つのは…。」
「気にするな。一種の罪滅ぼしだ。」
シキは否定的であったが異論は認めないと言う雰囲気で発言を被せる。
「あの、何かとんでもない物の様に思われるのですが。」
シキの反応からも受け取った魔法道具が普通では無い事がよく分かる。
「それは我が魔王時代に作った魔法道具だ。」
「魔王様が作った魔法道具…。」
そう言われて魔法道具を持つ手が少し震える。
あの誰もが知る魔王が作った魔法道具ともなれば、貴重過ぎてどれ程の値が付けられるか分かったものではない。
国宝と言っても間違い無い品である。
「そ、その様な物を受け取る訳には…。」
手を震わせながら返そうとするキクナ。
「言っただろう罪滅ぼしだ。他の者達がどう感じているかは関係無い。鬼人族に対して申し訳無い気持ちが我にはあるのだ。それで理由は充分。」
これは知らなかったとは言え、自分が転生した事によって迷惑を掛けたお詫びの品だ。
それでこれまで死んだ者達が帰ってくる事は無いが、これからの者達を守っていける。
他にも多くの種族が同じ思いをしているかもしれない。
出会った時には同じく封印級魔法道具を渡して罪滅ぼしをしようと思うジルだった。
「それは…。」
「昨日の事も覚えている。だからこれで今後は身を守れ。我が再び助けられるかは分からないのでな。」
前世とは違って今のジルは弱体化している。
かつての全能感は消え失せたので、魔王時代に庇護した者達を全て守るなんて事は無理なのだ。
出来るのは手の届く範囲を守る事くらいだろう。
「感謝致します。」
キクナはジルの言葉を受けて、大切そうに魔法道具を抱える。
「使い方は簡単だ。一先ず魔力を流してみろ。」
「はい。」
キクナが言われた通りに球体に少し魔力を込めると、足元の土がボコボコと隆起していく。
そして盛り上がった土が姿を変える。
魔物で言うとウルフの様な形状をした、土製のゴーレムとなった。
「これは魔力を媒介に土で出来たゴーレムを量産する魔法道具だ。土と魔力が無ければ使えないので気を付けろ。」
簡単に言っているが魔王作と言うだけあって、これはとんでもない魔法道具の一つであった。
ゴーレムとは内包する魔力が無くなるまで動き続ける事が出来る代物だ。
そして必要な素材の土なんてどこにでもある。
つまり実質魔力さえあれば、無限に戦力を量産出来る魔法道具なのである。
前線に立って戦えない者達でさえも、この魔法道具を使えば戦力として強力なゴーレムを生み出せる。
そんな能力を考えればシキが少し躊躇するのも当然だ。
「ついでに耐久力や攻撃力もそれなりだ。ナキナとて集団で襲い掛かられれば、勝てないだろう。」
少量の魔力で生み出したにも関わらず、鬼人族最高戦力であるナキナをも倒せる力を秘めている。
単体でも護衛として充分仕事が出来るし、集団で集落の防衛をすれば並大抵の者では集落の侵入すら難しいだろう。
「そ、そんな凄い魔法道具だったとは。大切に使わせていただきます。」
魔法道具が手元にある限り鬼人族達が攻め落とされる事は無くなったと言える。
更に万が一の為に鬼人族しか使えない様に魔法道具を弄っておく。
これで盗まれても悪用する事は難しいだろう。
「では、我はいく。達者でな。」
罪滅ぼしも済んだし力も与えた。
魔王ジークルード・フィーデンは死んだので今後はこれを使い、自分達の身を自分達で守ってもらえればいい。
「巫女様、さようならなのです!」
シキがブンブンと手を振り、ライムもプルプルと揺れてお別れを伝えていそうだ。
いつまでもいると鬼人族達が起きてきてしまう。
自己満足とは言え罪滅ぼしが出来て安心して帰る事が出来る。
「はい、皆さんの新たな人生の無事をお祈りしております。」
ジル達が集落から少しずつ遠ざかっていき、姿が見えなくなるまでキクナが頭を上げる事は無かった。
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