10章
元魔王様と最強のメイド達 1
洞窟から派手に壁をぶち壊して登場したのは、ジルが無限倉庫から出したメイドゴーレムのタイプBであった。
現代においては明らかに規格外の性能を持つ魔法道具と判断して、シキが封印項目に分けていた物だ。
タイプB、別名近接戦闘型機械人形は、魔王ジークルード・フィーデン自らが自分を殺す目的で作った物だ。
故にかなりの怪力の様であり、巨大な得物でも軽々扱えている。
「メイドゴーレムだと、ふざけやがって。ただのゴーレムなんかに突破される魔法を使ってんじゃねえよ。」
ハガンは既にこの場にはいないフードの男に悪態を吐く。
封鎖された壁だけで無く、見張りの土人形達も全てタイプBによって粉々に砕け散らされていた。
「マスターの命令を速やかに実行します。精霊族・個体名シキ、スライム種・個体名ライム、多数の鬼人族、全ての保護対象を確認しました。」
タイプBは洞窟から出るや否や、ジルに言われた保護対象の確認作業を行う。
タイプCと同じく、ジルの万能鑑定の劣化版の様な機能が備わっているので、種族や名前の確認は可能だ。
「…ジル殿が、代わりに…向かわせて、くれた者か?」
「絶対そうなのです!ジル様は自分の代わりに代理を立ててくれたのです!」
ナキナとシキは自分達を保護対象と言っている事から、ジルが増援として送ってくれたのだと理解した。
全員が絶体絶命の状況だったので、これで首の皮一枚繋がったと言える。
「ちっ、魔法が使えねえんならスキルか魔法道具だろ?おいオーガ共、さっさとあのガラクタを潰せ!」
フードの男が陣形魔法によってジルの魔法を封じている。
ゴーレムを作り出す魔法は幾つか存在しているので、それが無いとなればスキルか魔法道具のどちらかだ。
いずれにしてもゴーレムと言う括りならば、残存魔力が無くなれば動けなくなるので、ハガンは戦って魔力を消費させる事にした。
「マスターの命令通り、保護対象以外の邪魔者の殲滅を実行します。」
タイプBは身の丈を上回るハンマーを片手で軽々と持ち上げ、ハガンの命令で近付いてきていた近場のオーガ目掛けて振り下ろす。
オーガは持っている斧を構えてハンマーを受け止めようとした。
しかしハンマーの動きは一切止まる事は無く、圧倒的な重量と破壊力によって血肉を撒き散らしながらオーガを押し潰した。
あまりにも一方的な死がオーガ達の目の前で起こる。
その蹂躙とも言える光景に、オーガ達はタイプBを恐れて怯んでしまう。
「ビビってんじゃねーぞてめえら!代わりに俺がてめえらを殺してもいいんだぞ!」
「「「グオオオオ!」」」
しかしその様子を見たハガンが一喝すると、オーガ達は我先にとタイプB目掛けて突っ込んでいった。
タイプBよりもハガンの事を酷く恐れている様子だ。
「集団戦に不向きな武器と判断しました。『換装!』」
タイプBの換装と言う言葉によってハンマーが突然消えて、代わりに同じくらい大きな大鎌が現れる。
これはタイプBに備わる戦闘機能であり、瞬時に装備の変更が可能なのである。
そしてジルにしか分からない事だが、取り出した大鎌は死神が持っていた大鎌と同じくらい禍々しい。
と言っても死神の持つ大鎌は正真正銘の神器、性能は全然違う。
「っ!?武器が変わっただと!?」
動揺するハガンは置いておき、向かってくるオーガ達目掛けて大鎌を横薙ぎに振るう。
派手な風切り音と共に複数のオーガの身体が真っ二つに分かたれ、血飛沫を上げて倒れていく。
ハガンの脅しの効果か、オーガ達はそれでも次々とタイプBに向かっていく。
しかしその度に増えるのは地面に横たわる分かたれた死体だけだ。
「少しは自分の頭が足りていないと実感出来ましたか?」
一通りオーガ達の無謀な特攻が収まったところで、タイプBがハガンに向けて言う。
「…なんだと?」
「己が価値観でしか他を評価出来無いからこそ、私をガラクタなどと言えるのです。マスターの手によって生み出された物は全て、神器と呼んで差し支えありません。」
タイプBはゴーレムながら自分をガラクタと呼んだハガンに憤りを感じていた。
それは生み出した本人を侮辱しているのと同義だからだ。
タイプBはマスターであるジルが己の全てだと考えているので、生み出してくれたジルやジルの生み出して物を侮辱されるのは許せない。
「神器に小物の
「殺す!」
タイプBの言葉を受けて、より一層殺意を高めるハガン。
その殺意に合わせる様にオーガ達が向かってくる。
「何度やっても…。」
タイプBは再び大鎌を振りかぶる。
先程と同じく横薙ぎに振るうだけでオーガ達は倒れていく。
それ程の圧倒的な実力差がタイプBとオーガ達にはあるのだ。
「爆ぜろ!ガラクタが!」
オーガに斬り掛かろうとするタイプB目掛けて、ハガンは魔法道具である指輪の効果を発動させた。
指輪は光り輝いて砕け散ったが、代わりにタイプBを中心に大爆発を巻き起こした。
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