元魔王様と暗躍する謎の集団 4
洞窟をジル達が進んでいく。
壁に掛けられた灯りによって視界は良好である。
「やはりおかしいですね。」
しかし鬼人族達はその灯りを見て訝しんでいる。
「何がだ?」
「この灯りですよ。こんな物は元々設置されていませんでした。」
この洞窟には何も無いのであまり来る事は無かった。
故に灯りも取り付けたりする必要が無く、鬼人族の手は加わっていないのだ。
「つまり誰かが定期的に利用していると言う事だろうな。」
魔物が自ら灯りを用意する訳は無い。
暗い洞窟に灯りを持ち込んで頻繁に誰かが使っている証拠だ。
「奥にいる者でしょうか?」
「奥にいるのは魔物だと思うから違うと思うぞ。」
姿を見た訳では無いが、ほぼ魔物だとジルは確信していた。
「魔物なんですか?」
「魔力量の多さからの予想だがな。」
感じられる魔力量から、人族や鬼人族で無いのは直ぐに分かる。
魔力の多いエルフ族や一部の魔族の可能性もあるが、それでも魔力量が多過ぎると言った印象だ。
「もう直ぐ空洞に出ます。」
緊張した面持ちで武器を構える鬼人族達。
魔力量の高い魔物がいると言われれば緊張もするだろう。
「確かに広いな。」
空洞は大きなドーム状になっており、壁にも灯りが取り付けられているので空洞内をよく見渡せる。
「なっ!?」
「あ、あれはオーガ!」
「だが弱っているぞ。」
そんな灯りに照らされて空洞の奥に巨大な魔物が見えた。
遠くからでも分かるその巨体は、大きな角を額から生やし、体格に見合う斧を持っていた。
そして原因は分からないが既に血を流して弱っている様である。
「ゴガアアア!」
オーガは侵入者を見つけると、雄叫びを上げながら向かってきた。
ドスドスと言う豪快な足音が空洞内に響き渡る。
「ジルさん、ここはお任せを。」
「散開して囲むぞ!」
「鬼の魔物如きに遅れを取るな!」
相手が手負いと言う事もあり、鬼人族達がジルに頼らずにオーガの周りを囲む。
自分達だけで討伐するつもりなのだろう。
「おいお前達…。」
「ゴガアアア!」
油断するなと注意しようとしたジルの言葉をかき消す様に雄叫びが上がる。
そして斧を振るって鬼人族達を薙ぎ払おうとしてくる。
それを鬼人族達は武器で弾いたり素早い動きで躱したりしながら、側面や背後からチクチクと少しずつダメージを与えている。
さすがに連携がしっかりしている。
「これしきの魔物を隠す必要があったのか?」
鬼人族達が常に優勢であり、危なげなく討伐出来そうな状況だ。
一応万能鑑定を使ってオーガを視てみる事にした。
すると様々な情報が見えた。
名前はオーガサモナーと言う特殊な個体の様であり、ジルも初めて見る魔物だ。
スキルは魔力貯蔵と大召喚の二つを持っていた。
魔力貯蔵は膨大な魔力を蓄える事が可能なスキルらしい。
そして大召喚は同系統の魔物を大量に呼び出すスキルらしいのだが、発動条件未達成となっていた。
発動条件は大量の魔力と自らの死が起点となるらしい。
これまでの状況やこの魔物のスキル構成を見ても、明らかに人為的に仕組まれているのが分かる。
「待て、殺すな!」
死を起点にスキルが発動するとなると、オーガサモナーを殺すのは非常にまずい。
しかし何故か元々瀕死だった事もあり、鬼人族が身体に突き立てた武器によって呆気無く倒れてしまった。
するとそれを合図とする様に空洞の至る所に次々と魔法陣が浮かび上がってきた。
死を起点とした大召喚のスキルが発動してしまった様だ。
「っ!?これは!?」
「ジルさん、一体何が起こっているんですか!?」
状況を理解していない鬼人族達が突然の事に慌てている。
「トラップだ。普通のオーガでは無かったらしい。」
ジルも早く万能鑑定を使っていれば防げたかもしれないと反省する。
「トラップ!?」
「そのオーガが死ぬ事によって大量のオーガが召喚される様だ。」
言っている間にも魔法陣から次々と姿を表してくるオーガ達。
大きさや見た目も様々であり、強い個体も多そうである。
「そ、そんな…。」
「我々のせいで…。」
ジルの言葉を受けてとんでもない事をしてしまったとショックを受ける鬼人族達。
キクナのスキルによって得た予知の滅びを自分達が招いてしまったと感じているのだろう。
「反省は後にしろ。召喚の規模が分からない、一先ず外への脱出通路を確保しろ。」
空洞に繋がる一本道の通路からもオーガが向かってきている。
このままでは通路がオーガで塞がれて外に出られなくなるかもしれない。
「ジルさんはどうするんですか?」
「我は洞窟内から殲滅していく。外にもいる様だから、無理しない程度に戦ってくれ。」
ここからでも外の魔力感知は出来る。
そして周辺にいるオーガ達と同じ魔力を複数外から感じ取った。
「は、はい!」
鬼人族達がジルの指示を受けて通路に向かっていく。
先程見た連携を活かして戦えば、大量のオーガ達相手でもなんとかなるだろう。
「なんとか洞窟からは出せそうだな。」
別行動にしたのは理由もあった。
洞窟内の数がかなり多いので、四方八方から囲まれると鬼人族達は対処が難しいと思われた。
ジルだけならばどうとでもなるので、守りながら戦うよりは退路の確保を任せたのである。
そしてもう一つ理由があり、今まさに目の前で召喚されているオーガが他とは別格なのだ。
正直に言うと鬼人族達は足手纏いとなる可能性が高く、早々に避難させたかったのである。
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