元魔王様とセダンの大商会 7
おそらくジルの事を新人冒険者が大金を身に付けている様な状態にでもみえているのだろう。
ジルの実力を知っていれば、武力で争うと言う発想にはならない筈である。
「ふむ、そちらの言い分は理解した。」
「なら早速出してもらおう。」
ジルの態度を見て、ニヤニヤとした笑みを浮かべるモンド。
手に入れば莫大な金を生み出す事は容易に想像出来る。
「勘違いするな。理解しただけで共感するとは言っていない。」
「…なんだと?」
しかしジルの言葉を聞いて態度が一変して不機嫌になる。
不愉快そうな表情をしてジルを見ている。
「貴様、自分が何を言っているのか分かっているのだろうな?」
モンドにとっての最終通告である。
大商会の長を敵に回す意味がどんな事になるか、言葉にそんな感情が載っている様だ。
「お前こそジル様に向かって失礼なのです!直ぐに土下座して謝罪するのです!」
黙って聞いていたシキがもう限界だとばかりにモンドに抗議する。
尊敬する主人に対しての無礼な発言の数々、戦闘力の無いシキだからこそ抗議だけで済んだ。
魔王時代の配下達がこの場にいれば、その横柄な態度に我慢出来ずにモンドは一瞬で殺されていただろう。
付き従えているのがシキであって命拾いしたモンドであった。
「…ちっ、ムカつくが精霊は貴重だ。おい、精霊は丁重に捕まえろ、男は半殺しにして隷属の首輪を嵌めろ!」
モンドが指示を出すと部屋の中にいたメイド達が動き出す。
全員隷属の首輪を付けられている奴隷なので、主人であるモンドの指示に逆らえないのだ。
「敵対すると言う事でいいんだな?」
「そう聞こえなかったか?穏便に済ませてやろうと思ったが、奴隷にしてから収納した物は頂くとしよう。」
ジルに隷属の首輪を嵌める事が出来れば、強制的にスキルを発動させる事も出来る。
モンドは手っ取り早くジルを奴隷にする事にした。
「ジル様、この人達は操られているのです!」
「戦闘奴隷と言うやつか。」
メイド達が剣や短剣を構えてジル達を取り囲む。
奴隷の中でも戦う事に特化した者達を戦闘奴隷と言う。
モンドは戦闘奴隷達にメイドの真似事をさせている様だ。
「ぐふふふ、抱き心地の良い戦闘奴隷を探すのには苦労したもんだ。だが常に侍らせながら身を守れるから、苦労した甲斐はあったがな。」
モンドがメイド達を見回しながら言う。
確かにどの娘も若くて容姿の良い者ばかりである。
「逃げて。」
「これ以上傷付けたくない。」
「自分の意思じゃ止められないの。」
ジルを取り囲むメイド達が口々に言う。
自分の意思では止められないが、モンドの指示には従いたくないのだろう。
「ちっ、教育が足りない様だな。後で存分に調教してやろう。」
そんなメイド達の態度を見てモンドが気味の悪い笑みを浮かべながら言う。
後の事を想像して楽しんでいるのだろう。
「ジル様…。」
メイド達を見てシキが悲しそうな顔をしている。
モンドの様な男の言いなりになっている彼女達が可哀想で仕方無いのだろう。
「安心しろ、我に任せておけ。」
「はいなのです!」
シキの言いたい事は分かっている。
積極的に悪事に加担している訳では無いのでジルも助けるつもりである。
「避けて!」
メイドの一人がジルに向けてそう言いながら剣を振り下ろす。
だが剣はジルに触れる事は無く、空中で甲高い音を響かせつつ何かに阻まれ弾かれた。
剣が空中で弾かれた事にモンドとメイドが驚いている。
「妙な力を使いおって。全員で掛かれ!」
モンドの指示で強制的にメイド達が剣をジルに振り下ろしてくる。
しかしその全てが空中で弾かれ、ジルに届く事は無い。
「どうした?それで終わりか?」
「貴様!一体何をした!」
余裕そうに寛ぐジルに苛立ちながらモンドが叫ぶ。
その場から一切動く事無く、戦闘奴隷達の攻撃を退けている。
「何をした?こんな事も分からないとはな。」
ジルは煽る様に首を左右に振りながら言うと、モンドは怒りで顔を真っ赤に染めている。
何故剣が弾かれているのかと言うと、ジルが使った魔法による効果である。
詠唱破棄のスキルによって無詠唱で発動させた結界魔法が、ジルとシキを覆う様に透明な結界を作り出しているのだ。
剣で斬り付ける程度では、ヒビすらも入る事は無い頑丈な守りである。
「ぐっ、…図に乗るなよ。騒ぎを聞き付けて直ぐに傭兵共がここに来る。」
先程からモンドの部屋で騒がしくしており、今は剣から発せられる金属音も鳴り響いている。
ドアの直ぐ外には案内してくれた門番も控えているので、戦闘音が聞こえれば直ぐにでも乗り込んでくるだろう。
「ちっ、まだか!傭兵共、出番だぞ!この不届き者に身の程を弁えさせてやれ!」
中々駆け付けてこない配下にイライラしながら、扉の外に向けてモンドが叫ぶ。
だがモンドの声に反応する者はおらず、ドアが開く気配は無い。
「な、何故だ!?何故誰も来ない!?」
「さて、何故だろうな?」
ニヤリと笑みを浮かべながらジルが言った。
当然人が駆け付けてこないのもジルの仕業である。
自分達を結界で覆う前に、既に部屋全体を遮音結界で覆っていたのだ。
これにより中の音が外に漏れる事は無い。
どれだけ中で叫んだり暴れたりしても、扉の向こう側にいる限り音が届く事は無い。
「貴様!まさか既に外の者達を!はっ!奴はどこだ!?俺様の敵は全て暗殺してくれるのではなかったのか!」
頼りになる暗殺者の執事を求めて辺りを見回す。
今はジルをいつでも暗殺出来る様に、監視する手筈になっているのだ。
しかしモンドは既に見捨てられている事に気付いてはいなかった。
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