元魔王様とセダンの大商会 6
男達に付いて黙って歩いていると、街中の人達から哀れむ様な視線を感じる。
その中にはジル達との売買を断ったビーク商会関係者達もおり、目を合わせない様にしている。
自分達の身を守るだけで精一杯なのだと感じられた。
「まるでこれから酷い目に合うみたいな雰囲気だな。」
「最近の商会のやり口は知られているのです。勘違いするのも仕方が無いのです。」
リュカ以外にも平民の若い娘達を、借金を理由に奴隷落ちさせ様としている。
そんな噂であれば広まるのも直ぐであろう。
「ん?」
「どうしたのです?」
歩きながら突然後ろを気にし出したジルを見てシキが尋ねる。
振り返っても特に何かある訳でも無い。
「…。なんでもなさそうだ。」
「?」
シキがジルの様子に首を捻っていると、周りの建物と比べて一際大きな屋敷が見えてきた。
ギラギラと装飾されている箇所もあり、金持ち特有の趣味の悪さが際立っている。
「そこの門番に封筒を見せろ。そうすりゃ中に通してくれる。」
それだけ言って四人組は来た道を戻っていった。
初めて会った時の様に使いっ走り的な立ち位置なのだろう。
「止まれ、通行証を見せろ。」
門番が槍で門を塞ぎながら言ってくる。
強面門番の二人組が威圧してくるので、普通の者ならば怖くて逃げ出していそうだ。
「この封筒でいいんだよな?」
「うむ、確かに。案内する、付いて来い。」
門番の一人が封筒を開けて確認し終わると、門の中に通されて屋敷の中に案内される。
さすがはセダン一の商会を経営する者の屋敷、メイドや執事の量が多い。
だがそれを上回る程に冒険者や傭兵の姿が見える。
自分のしている行いがどう言うものか理解している様で、屋敷の守りは相当手厚い。
「ここだ、少し待っていろ。モンド様はお楽しみの最中の様だ。」
門番の言葉の通り、中からは女性の荒い息遣いや声が扉の外にまで聞こえてきている。
直ぐに来いと呼び付けておいて待たせるとは、扉を蹴り破ってやろうかと一瞬思ったが、その衝撃で万が一にも殺してしまう可能性を考え思い止まった。
トゥーリはモンドを捕縛したいのであって、直ぐに殺すつもりは無いらしい。
簡単に始末出来るがそれは領主であるトゥーリに任せるとする。
「モンド様、例の冒険者を連れて参りました。」
中の声が静かになったタイミングで、門番が豪華な扉をノックして中に呼び掛ける。
「少し待て。」
そう言われて5分程経ち、中へ通される事を許された。
中にはでっぷりと贅肉を付けた男、現商会長のモンドとメイドが数名控えている。
メイドに椅子を勧められたので、モンドの対面に座る。
「お前がジルとか言う冒険者か。」
ジルの事を値踏みする様に見ながら商会長であるモンドが言う。
「そうだ。何か用か?」
「ふん、口の聞き方がなってないガキだな。」
そうは言われても目の前の男からは害しか受けていないので、敬う気持ちは皆無である。
「単刀直入に言ってやる。貴様がスキルに収納している高価な物とその精霊を差し出せ。」
モンドはいやらしい笑みを浮かべながらジルに向かってそう言い放った。
いきなり何を言い出すかと思えば、突拍子も無いとんでもない要求であった。
「どこでその事を知ったんだ?」
一応尋ねてみるが、昨日の話しの内容から十中八九トゥーリの仕業である事は間違い無い。
それとなく大商会関係者にジルの情報を流して、モンドに興味を持たせたのだろう。
「大商会ともなれば、そんな情報は幾らでも入手出来るのだ。」
「ふむ、それでそれは本気で言っているのか?」
この男は差し出すのが当然であるかの様に言ってくるが、精霊や無限倉庫の中身を突然要求してきても、ジルが応じる訳が無い。
「察しの悪い奴だ。それで手打ちにしてやろうと言っている。」
モンドは少しイライラしながらジルに言う。
無駄話しは一切したくないと言った様子だ。
「手打ち?」
そんな対価を求められてまで手打ちにする様な事があったかと考える。
「俺様の計画を貴様は邪魔したのだ。覚えがあるだろ?」
「宿屋の一件か?借金は全額返済したと思うが?」
あれは請求してきた分を女将達の代わりにジルが全額支払ったので、文句を言われる筋合いは無い。
「俺様が気に入った女どもは、金よりも優先して連れてくる事になっていたのだ。それを突然現れて邪魔しおって。」
モンドはジルの言い分なんか関係無いと言わんばかりに文句を言う。
欲しい女はどんな手段を使ってでも手に入れるつもりだったのだが、ジルに金を払われたせいで失敗してしまった。
所謂八つ当たりであった。
「それで腹いせか。」
「俺様の商会はセダンで手広くやっているからな。随分と苦労しただろ?」
セダンの街一番のビーク商会の系列や関係のある全ての店で取り引きが出来無くされてしまった。
普通の者であれば、暮らしていくのも困難なレベルである。
しかしジルには異世界通販や無限倉庫があるので、大してダメージを受けていない。
モンドもまさか無制限に収納出来るスキルを持っているとは思っていなかっただろう。
「それを先程言った物を差し出せば、取り消して普通に生活させてやると言っているのだ。」
「我が他の街に行く事は考慮していないのか?」
そんなに支払うくらいならば、セダンの街に拘る必要も無い。
ビーク商会の力が及ばない街まで行って、そこで生活すればいいだけなのだ。
「貴重な金づるを簡単に逃す訳があるまい。手練れは幾らでも用意出来る。一介の冒険者如きが逃げられる筈は無い。」
モンドは是が非でもジルから奪うつもりであり逃すつもりは無い様だ。
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