元魔王様とセダンの大商会 4

 冒険者の依頼には護衛の様な仕事もあり、商会に専属で雇われたりする事もある。

そうなると冒険者の中にはビーク商会の息の掛かった者も自然と出てきてしまう。


 なのでギルドは依頼に合う冒険者を慎重に選ぶ必要があり、依頼主が依頼主なので下手な冒険者を紹介出来無い。

そんな中でジルは正にぴったりな人物と言えた。


「確実に厄介事ではないか!」


 実力を求められる時点で、戦う可能性があると言う事を意味している。

厄介な内容である事は確実と言っていい。


「でも条件に合う様な方を見つけるのも難しいんですよ。ギルドの決断に少しばかりの敬意を感じて、話しだけでも聞いてもらえませんか?」


 そう言ってミラが両手を合わせて懇願してくる。

ギルドとしてはビーク商会よりもジルを選んだ心意気を買って依頼を受けてほしいと言う考えだ。


 領主からの依頼となれば、ギルド側も失敗する事は出来無いので、確実な者を選びたいと言う気持ちである。

ランク選定試験から既に数々の規格外な力を見せ付けてきたジルに受けてもらえれば、ギルドとしても安心出来る。


「仕方が無い、ギルドから恩を感じた事は確かだ。受けるかは別として話しは聞くとしよう。」


 ミラにそう言われてしまえば断る事も難しい。

自分の為に動いてくれたのであれば今度は返す番だろうと、話しだけでも聞く事を承諾した。


 そして翌日、ミラに領主に連絡をしておくので、明日また来てほしいと言われていたので再びギルドを訪れた。


 領主ともなれば忙しそうなイメージだが、昨日の今日で時間を作ってもらえるとは、暇で無いのならその依頼が最も優先される様な状況なのだろう。


「ジルさん、お待ちしてました。こちらへどうぞ。」


 ギルドに入るや否やミラに連れられて応接室の様な部屋に通される。


「失礼します、件の冒険者をお連れしました。」


「うむ、入ってくれ。」


 ミラが扉の中に向かって言葉を掛けると中から返事が返ってくる。


「失礼致します。」


 ミラに続いて中に入ると、ソファーに可愛らしい見た目の女の子が一人座っていた。

気品溢れる見た目からは育ちの良さが窺える。


「なんだこの子供は。領主はどこだ?」


 応接室の中には目の前の子供以外に人はいない。


「ちょっ!?ジルさん!?」


「いきなり失礼だなお前さん。私がその領主だよ。」


 慌てるミラを制しながらソファーに座っている子供が名乗る。


「冗談と言う訳では無いらしいな。」


 ミラの方を見るとジルが失言をしないか心配して緊張している様子だ。

万能鑑定のスキルで見てみたが、年齢はまだ10歳であった。


「私の街で暮らすなら知っておいてほしいんだけどね。これでも一応最年少で領主をしている、才女で知られているんだよ?」


 10歳で領主をしているのであれば、目の前の女の子は正に天才と言ってもいい部類だろう。


「我は最近街に来たばかりなのだ。」


 まだ人族に転生して日が浅いジルには知らない事が沢山ある。

こんな小さな子供が領主だなんて考えるのは難しいだろう。


「ジルさん!もう少し言葉使いを!」


「気にしなくていいよ。冒険者に一々マナーを求めるのも面倒だからね。それに成る程、だから依頼候補に選ばれた訳か。」


 ミラはジルの言葉使いを気にしていたが、当の本人は問題無い様だ。

そもそも冒険者は平民出の者が大半なので、トゥーリが言う様に言葉使いがしっかりしている方が稀なのだ。


「受けるかはまだ決めていないがな。」


「受けてもらえる様に善処しようじゃないか。こちらも少し状況が悪いからね。」


 それから依頼の内容を領主のトゥーリが語ってくれた。

簡単に言えば領主側に付いて、ビーク商会の商会長であるモンド失脚に協力してほしいと言う内容だ。


 理由は単純で、モンドが親の築き上げた商会を利用して、権力の悪用を企てている事が分かったからだ。

セダン一の大商会と言う事もあり、勢力も領主と同じかそれ以上にもなるらしい。


 このままでは領主の勢力が取り込まれるのも時間の問題の様だ。

そして金に物を言わせて周りを黙らせ、無理矢理婚姻を結ばれて街を乗っ取られる可能性すらあるらしい。


 前商会長が亡くなったと言う話しが広まってから、その計画が水面下で爆速で行われているのだ。

阻止しなければセダンの街が滅茶苦茶になってしまう。


「その前商会長だが、やはり殺された可能性が高いのか?」


「確実だろうね、動きがあまりにも早過ぎる。前もってしっかりと計画していたんだろうね。」


 シキの言った通り予想は的中していた。

どうやら本当に商会の乗っ取り計画の様である。


「やはり面倒事だったか。」


「面倒の一言で片付けてほしくはないね。私の最悪の結末は、あのオーク男との婚姻なんだから。」


 面倒事と聞いて溜め息を吐くジルを見て、トゥーリは更に深い溜め息を吐くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る