元魔王様とセダンの大商会 2

 食事が済んだ後に早速冒険者ギルドに向かった。

その道中に分かったが、露骨に店を構える者達と視線が合わない。

厄介事に巻き込まれたく無いので、積極的に関わってくる者はいない。


「悲しいのです。」


 シキはそんな周りの様子から少ししょんぼりとしている。

信仰の対象にもなる精霊は人族からの扱いは良い。

道を歩いているだけでも、御利益があるからと食べ物を貰えたりする程だ。

それが昨日の今日で態度が全然違えばシキの気持ちも分かる。


「どうせ一時的なものだ。直ぐ解決する。」


「ジル様の作戦って何なのです?」


 宿屋でも何か作戦がある様な事を言っていたので、シキは気になっている。


「ギルドに動いてもらおうと思ってな。」


 ランク選定試験、初依頼、緊急の救出作戦とたったの三回の出来事で、全て新人冒険者とは思えない成果をジルは上げている。


 自分で言うのもあれだが、ギルド的には実力者は囲っておきたいと考えるのが普通だ。

ジルの様な規格外な存在を、ギルドがそう簡単に手放すとは思えない。


「まあ、ギルドにも理由があって断られたら直談判だな。」


 直接商会に乗り込んで話しを付ける。

目立つ様な事はしたくないが、日常生活に支障をきたす事ならばやむを得ない。


「可哀想なのです。この街から一つの商会が消えてしまうのです。」


 ジルの発言を聞いたシキがよよよと泣く様な仕草をしながら言う。


「我がそんな事をすると思っているのか?酷い精霊を仲間にしたものだ。」


「前科があるのです。とても話し合いだけで済むとは思えないのです。」


 シキが言っているのは魔王時代の事だろう。

正直大小関わらずやらかした事は多々あるので、どの内容について言っているのか検討もつかない。


「まあ、昔は昔だ。我も生まれ変わったのだし、多少は自重出来る。」


 実際に魔王時代と比べて遥かに弱体化しているので、力加減はまともになった方だ。


「少し心配ではあるですけど、シキの交渉術でお助けするのです。」


「期待しておくとしよう。おっ、ミラは手が空いている様だな。」


 ギルドでの対応は全て受付嬢のミラがしていてくれたので、新しい者よりもいつもの受付嬢の方が都合が良い。


「ジルさん、シキちゃん、こんにちは。」


 挨拶は普通だが、ミラは遠くからジル達を認識した時、少しだけ嫌そうな表情をしつつジト目を向けていた。

この反応だけでギルドでも何かあった事が分かる。


「昨日ぶりなのです。」


 実はジルがゴブリンの集落を殲滅させて帰りが少し遅くなっていた時に、心配になってシキはリュカに連れてもらいギルドに様子を伺いに来ていた。

その時にミラと知り合ったらしい。


「さて、その様子を見るとこちらの事情を少しは把握している様だな。」


「はぁ~、一体何をやらかしたんですか?いらない仕事を増やされてヘトヘトなんですから。」


 ミラは心底疲れた様に溜め息を吐く。

ジルと商会の揉め事でギルドにも何かしらの面倒事が起きた様だ。


「事情を聞けば少しは理解出来ると思うがな。」


 ジルは事の発端を簡単に説明してやる。

話しを聞くに連れてミラも少し眉間に皺が寄っている。


「成る程、そんな事があったんですね。」


「ジル様は何もやらかしてなんかいないのです!」


 シキは改めてジルが語った内容にプンプンと怒っている。

現状の酷い扱いが許せないのだろう。


「その様ですね。でも敵対した相手が悪い事は確かです。」


 喧嘩を売った相手については当然ミラも知っている。

と言うかこの街に住んでいて知らない者の方が少ないだろう。


「この街一番の商会らしいな。」


「ええ。それとここだけの話しですけど、昔からモンド様は前商会長と比べて素行が悪い事で有名です。目を付けられたら厄介でしょうね。」


 ミラがこっそりと小声で教えてくれる。

影響力のある存在なので、関係者に聞かれれば大変である。


「それはここに来るまでで理解している。それでギルドとしてはどうするのだ?」


 ビーク商会の圧力を受けたギルドの反応、これが一番ジルの気になっているところだ。


「当然ここにも使いの方が来ました。ジルさん達との取り引きを止めなければ、ギルドと今後一切のやり取りはしないと。」


 ギルドに冒険者が持ち込んだ素材類は、ビーク商会や系列店に大量に買い取ってもらっている。

やり取りが無くなるとすれば、ギルドとしてはかなりの痛手である。


「その解答を聞くとしよう。先に言っておくが、返答次第では冒険者を辞めたり、街からいなくなるだろうな。」


 これがジルの考えていた切り札である。

正直に言えば身分証が無くなっても、活動拠点を移す事になっても、ジルにとっては大した事では無い。

別の街や国でやり直せば済む話しなのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る