元魔王様と宿屋の事情 6.5
とある屋敷の一室、一人の男がワイングラス片手にほくそ笑んでいた。
「ぐふふふ、親父を病気に見せ掛けて上手く殺せたし、俺様の計画をやっと進められる。」
誰に話す訳でも無く、ご機嫌で呟きながらワインを呑む。
少し動くたびに顎や腹に付いた肉が揺れる。
「親父に従ってた奴らは相変わらず煩いが、商会長の俺様には逆らえまい。」
「モンド様、宜しいでしょうか?」
部屋の扉がノックされて、外から声が掛けられる。
「入れ。」
「失礼致します。」
入ってきた男はモンドと呼ばれた男に仕える執事だ。
しかし執事は仮の姿であり本業は暗殺者であった。
モンドの側近の中で最も使える男でもあるので、執事と言う体で近くに置いて重宝している。
「何か用か?」
「早速モンド様の指示通りに徴収活動を行なっております。金と女は数日中にでも揃えられるでしょう。」
報告書の紙を見ながら執事が読み上げる。
「そうかそうか、順調なのは良い事だ。金があれば大商会を更に拡大させ、街の実質的な支配者となる日も近い。その様子を若い女を抱きながら眺める。」
想像しただけで笑みが溢れるモンド。
女を抱いているだけで金が幾らでも舞い込んでくる。
モンドの父親が商会を大きくしてきたが、上手く良いとこ取りした形である。
「食事に気付かれない様に毎回遅効性の毒を盛るのには苦労しました。報酬には期待してますよ。」
「分かっている、金は幾らでも手に入る様になるのだからな。」
金にがめつい男ではあるが仕事ぶりは申し分無いので文句は無い。
「金さえ払っていただけるのなら、幾らでも使われましょう。ああ、そう言えば一つだけ問題があったのでした。」
「問題?」
モンドは問題と聞いて少し不機嫌そうな顔をしながら尋ねる。
自分が贅沢な生活をする為には、計画に支障が出るのは困るのだ。
「借金を負っていた宿屋の娘なのですが、奴隷落ちさせようとしたところ、たまたま居合わせた冒険者が借金を代わりに払ったらしいですよ。」
「それで手に入れられなかったと?」
奴隷落ちさせようとした娘は、全員若くて顔立ちも良くスタイルが良い者ばかりをモンドが選んだ。
全員を手に入れて最高のハーレムを作ろうとしていたので、一人とは言え手に入らないのは許せない。
「そうなりますね。」
「宿屋の娘と言うとリュカか。あの元気で強気な性格を俺様色に染めるのを楽しみにしていたのだ。なんとしても連れて来い。」
「でしたら私の方で手を打っておきましょう。」
いつも動いたり部下に命じたりしているのは執事でありモンドでは無い。
執事としても自分が動く方が何事も上手くいくと思っているので、仕事形態に文句は無い。
「頼んだぞ。それとその冒険者とやらも、私の街には必要無い。追い出しておけ。」
「畏まりました。」
執事は一礼して部屋を出て行く。
「全く、どこの冒険者か知らんがいらん事をしおって。まあ、この程度大した障害でも無いだろう。ぐふふふ、このまま商会を拡大して更なる権力を手に入れれば、いずれは領主との婚姻も、ぐふふふふふ。」
少し問題が起きた様だが執事の仕事ぶりは知っている。
今回も何事も無く計画は上手くいくだろうと、思い描く最高の未来を夢見て、再び上機嫌でワインを口に運んだ。
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