元魔王様と宿屋の事情 5
男がシキに向かって手を伸ばし捕まえようとする。
シキは精霊の自分にそんな事をしてくるのは予想外だったのか少し怯えている。
『動くな!』
ジルが大きな声でも威嚇した声でも無く、普通に発した様に感じられる言葉だったが、その言葉を受けて直ぐに
「な、なんだ!?」
「身体が動かねえ!?」
顔だけは動ける様であり、ピクリとも動かない自分達の身体に困惑の声を洩らしている。
「黙って見ていれば随分と勝手な事を言ってくれる。」
ジルは椅子から立ち上がり、シキとリーダーの男の間に割って入る。
「邪魔だ、シキが怯えているだろう。」
そう言ったジルが特に力を込めた様子も無く、リーダーの男の額に指を近付けてデコピンを放った。
だが当たった瞬間に「ドガッ!」と言う、とても人体から出たとは思えない音が響く。
リーダーの男が開けっ放しとなっていた扉から一瞬で外に吹き飛んでいった。
その光景を周りの者達は驚愕の表情で見ている事しか出来無かった。
リーダーの男が吹き飛んでいった外を見ると、額が赤く腫れ上がり白目を剥いて気絶していた。
それと同じタイミングで男達の拘束が解ける。
これはジルの言霊と言うスキルによる効果であった。
魔力消費が大きく少し例外もあるが、発した言葉を現象として実際に引き起こすと言うとんでもない能力を持つスキルだ。
それにより男達四人は、ジルが発した言葉通りに身動きが一切取れなくされてしまったのだ。
「う、動いた!何だったんだ?」
「おい、お前いきなり出てきて何をするんだ!」
「人助けのつもりか?こっちは正式な契約書を持っているんだぞ!」
身体の自由を取り戻した男達がジルに向けて抗議をしてくる。
柄の悪い男達から女の子を守る、正義のヒーロー気取りの冒険者にでも見えたのかもしれない。
「その件については我は知らん。」
一週間程この宿屋に泊まっているが、借金をしている話しを聞いたのはつい先程である。
「だったらなんで…。」
「お前達が我の契約した精霊に手を出そうとしたからだろう。」
抗議を遮る様に食い気味に言いながら、真契約の紋章を見せる。
なのでシキは一人の仲間だとジルは思っている。
その仲間を怯えさせられれば、多少なりとも不快な気持ちになるのは当然である。
「っ!?その精霊はお前のだったのか。」
「確かにそれなら悪い事をしたが、別に攻撃しなくてもよかったじゃねえか!」
外に吹き飛ばされて気絶しているリーダーを見ながら男達は不満を洩らす。
確かにやり過ぎと言われれば否定出来無いが後悔はしていない。
「魔が差した様だ。お前達の話しも不愉快な内容だったしな。」
実際はジルも止めに入るつもりではいたのだが、先にシキが動いたので様子を伺う事にした。
しかし戦闘能力の無いシキが襲われそうになってしまえば介入するしかない。
「あれは正式な契約なんだぜ、部外者には関係無いだろ。」
「全くだ、契約書にもこうして残されてるんだしな。」
金の貸し借りについて書かれた契約書の紙をジルに見える様に突き出す。
「ふむ、少し貸してみろ。」
「あ、おい!」
ジルは男の手から契約書を奪い紙に目を通す。
確かに女将が商会から金を借りた事について書かれている。
「100万Gか、随分と高いな。」
女将が借りた金額は100万Gと中々に高額であった。
金貨で言うと10枚分もあり、平民が簡単に出せる金額では無い。
「利子も含まれてるが正当な値段だぜ。」
「平民が直ぐに払える金額ではないだろ?」
蓄えがあってもポンっと出す額としては高過ぎる。
つまり最初から払わせる気が無い様なものなのだ。
「そんな理由俺達には関係無いな。借りたんなら返すのが筋だろ?」
「それに代替案を提示してるじゃねえか。娘を奴隷落ちさせて買い取ってやるってな。」
この者達の言い分も分からなくは無いがやり方は卑怯と言わざるを得ない。
「それが狙いなんだろう?随分と汚いやり口をする奴等だな。」
最初から金を払わせる気が無く、金の代わりのリュカが目当てなのだ。
見た目は看板娘と言えるくらい可愛らしい容姿なので、手に入れたいと思う男は多いだろう。
「それは俺達の知った事じゃ無い。おら、早く返しやがれ。」
男がジルの持つ契約書を奪い返そうとしてくる。
「ほれ。」
ジルは契約書を奪い返そうとする男の手に無限倉庫から出した物を代わりに載せてやる。
「へ?」
男の手の上には金貨が10枚縦に積み重なって置かれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます