元魔王様と宿屋の事情 2
「えーっと、ちょっと待って下さいね。」
ミラはミスリル鉱石の鑑定を始める。
素材鑑定と言うスキルを所持しており、買い取りに持ち込まれる物の価値や状態を調べる事が出来る様だ。
「え!?」
鑑定していたミラが突然大きな声を出してしまったので、近くの酒場にいた冒険者の視線を集める。
ミラはなんでもないとペコペコ謝って誤魔化していた。
「ジルさん、これどこで手に入れたんですか!?」
小声なのに迫力のある雰囲気でミラが尋ねてくる。
しかし魔王時代に拾った物だなんて言える訳も無いので、適当にどこかの山で拾った物だと答えておく。
「くっ、入手場所が分からないのは残念ですね。」
「そんなにこの辺りでは珍しいのか?」
悔しそうなミラの反応を見て、人族の国では手に入りづらいのかと尋ねる。
魔国フュデスでは簡単に入手出来たので、人族もそれなりに所持していると思っていた。
「ミスリル鉱石は価値の高い鉱石ですが、市場にもそれなりに出回りますよ。しかしこのミスリル鉱石は別格です!」
ミラ曰くジルが取り出したミスリル鉱石は純度が高過ぎるらしい。
これ程のミスリルであれば、とても性能の高い武器、防具、魔法道具を作り出せるので、簡単にギルドで買い取り出来無いレベルだと言われた。
こう言った物は鍛治師や錬金術師との直接的な取り引き、又はオークションに掛ける等の方法で売るのだと教わった。
結局買い取りしてもらう事は出来ず、宿に帰る事にした。
以上の内容から、普通だと思っていた物の価値が変わっている事を考えて、ジルが転生する間も地上で知識を蓄えていたシキに無限倉庫内の整理を任せているのだ。
そしてシキに聞いたのだが、ミスリル鉱石は昔から価値は高く、簡単に入手する事は出来無い物だったらしい。
何故魔国フュデスで大量に入手出来たかと言うと、魔王が発していた魔力が原因だったらしい。
本来長い長い時間を掛けて、魔力を蓄えた鉱石類がミスリルに変わるらしいのだが、魔王の膨大な濃い魔力はその時間を飛躍的に加速させたらしい。
その為魔王が暮らす国、特に中心都市では豊富に入手出来たが、魔王が死んでからは鉱石類が魔力の影響を受ける事も無くなったので取れる数は激減したと言う。
「ジル様が昔からどれだけ規格外だったのかよく分かるのです。」
「その説明を聞くと、我は相当な財産を所持していると言う事だな。」
無限倉庫の中には純度の高いミスリル鉱石が大量に存在している。
取り敢えずこれらを換金する方法も探さなければとジルは上機嫌に思考を巡らせた。
「むー、全然終わる気がしないのです。」
無限倉庫の整理整頓をしながらシキが大の字にパタリと倒れて言う。
作業を始めて数時間、しかしまだまだ終わる気配は無い。
「一体どれだけの物が入っているのです?」
「魔王時代は常に活用していたから想像も出来ん。それに転生直前にも大量に収納したしな。」
便利なスキルなので、生前はこのスキルを随分と使用した。
手に入れた物、貰った物、作製した物と何か手元にきた時は、一先ず中に入れていた。
更に一人になってからは様々な研究や実験を行った。
作り出された魔法道具等は簡単に人前に出せない物も多く、そう言った物も纏めて収納したので、膨大な物資が入っているのだ。
「少し休憩なのです。」
「特に急いでないから、暇な時間を見つけてしておいてくれ。」
不要で売れそうな物があれば、異世界通販の為の資金としたい。
ミスリル鉱石でも相当な財産となりそうなので、他にも価値の高い物がある可能性は期待出来る。
「了解なのです。ところでジル様、小腹が空いてたりしないのです?」
「ん?朝食から暫く経ったから食べれはするが、まだ昼食には早いぞ?」
部屋に取り付けられている時計を見ると、10時を少し回ったくらいである。
宿の食事の時間は大体決まっている。
朝食7時、昼食12時、夕食18時となっており、それ以外の時間帯は別料金を払う事によって注文が可能なのだ。
「ご飯じゃ無いのです。人族の文化にはおやつの時間と言う素敵文化があるのです。」
シキは嬉しさを身体で表す様にひらひらと舞踊りながら説明する。
そしてその口元からは少し涎を垂らしている。
「おやつの時間?聞いた事が無いな。」
「シキが仮契約を結んでいた相手が教えてくれたのです。」
ジルと真契約を結ぶ前に仮契約を結んでいた相手が、10時と15時になるとお菓子やお茶を用意してくれたらしい。
甘い物が好きなシキにとっては、甘味を得られるその時間が毎日の楽しみだったのだ。
「だが宿にはそんなものは無いんじゃないか?」
既にこの宿に泊まって一週間近く経過している。
そう言った物の説明は受けていないし、シキが甘味を食べている場面も見ていないのだ。
「そうなのです。でもこれを見てしまったら食べたくて我慢が出来無くなってしまったのです!」
そう言ってシキが無限倉庫から取り出したのは一冊の本だった。
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