魔王様と魂廻の儀 4

「選択肢が無いならば従おう。二つ目は?」


「自分に弱体化の魔法を掛けてほしいんだよね!一撃で死ねなくて痛い思いするのも嫌でしょ?」


 そう言って死神は何も無い空間から身の丈の倍はあろうかと言う巨大な大鎌を取り出した。

不気味な赤黒い色をしており、大鎌の危険さがひしひしと伝わってくる。


「死を司る神がそれを使って即死させられないのか?」


 死神が持つ大鎌は所謂いわゆる神器と言う物だ。

地上に存在する凡ゆる武器とは、比較する事すら愚かと言える存在感だ。


「君が規格外だから心配なだけさ!僕であっても、同種の存在に簡単に死の概念は与えられないからね!」


「分かった。」


 魔王は自身に様々なデバフを与える弱体化の魔法を使い、死神にはバフを与える強化の魔法を使う。

と言っても元々のスペックが非常に高いので、どちらも気休めにしかならないが、それは死神も理解しているだろう。


「準備完了だ。」


 これから目の前の死神に殺されると言うのに、魔王は少しワクワクしていた。

こんな気持ちは未熟だった頃に勇者と対峙して以来であろう。


「了解!魔王ジークルード・フィーデン、君の願いは死神である僕が叶えよう!」


 死神は身の丈の倍はある大鎌を軽々と振るい構える。

そして大鎌はドス黒いオーラを纏い、魔王は久々に自身の危険信号が仕事をしている事に気がつく。


「じゃあまた後でね!ちょっとチクッとしますよ!」


 魔王は治療か!と心の中でツッコミを入れていたが、突然意識がプツリと途絶えた。

そして意識が戻ると、目の前の光景は一変していた。

見覚えは全く無いが魔王城の庭どころか、地上ですらない場所であるのは分かる。


 見た事の無い現象が起こっているからだ。

巨人族でも楽々と潜る事が出来るであろう巨大な白い門、その前に様々な色をした球体が何列もの長蛇の列となって、ふわふわ浮いていた。


 列を整えたり誘導している者達もいて、白い装束で全身が包まれており種族は判別出来無い。


「ここが神界か。」


「その通り!」


 後ろから声が聞こえたので振り返ると、死神が扉の様な物を潜って出てきた。

扉の向こう側には、つい先程までいた魔王城の庭が見える。


「無事に神界に来られたみたいだね!」


「その様だな。この後はどうすればいいんだ?」


 神界に来た後のルールなんて分からないので、死神の言う通りに動くしかない。


「前回と同じ場所に行くよ!特殊な転生にはあの部屋を使うからね!」


 成る程と魔王は頷く。

唯一神界で知っている場所と言えば、魔王として地上に産まれる直前に、転生作業を行った部屋だけである。


 浄化されたばかりの魂である自分に、突然魔王としての役割を言い渡し、神々が恩恵を与えてきた部屋だ。

遥か昔の事だが鮮明に覚えている。


「ちなみにあの球体達はなんなんだ?」


「あれは今の君と同じ様に、死んだ者達が神界に来たばかりの状態、つまり魂だよ!」


 何かの不思議現象かと思っていたら、死した者達の魂の列だと言う。

地上で死んだ者達は一様にこの場所を訪れるのだろう。


 魂は相当な数であり、辺りにも突然神界に来たばかりと思われる魂が次々と現れている。


「成る程、これから転生の為の作業が行われると言う事か。」


「そう言う事!ついでに様々な色があるのは、前世の善行や悪行に応じて、魂の色が変化したからだね!魂の色は次の人生の査定に関わったりもするんだよ!」


 つまり様々な色に分かれているので、聖人の様な者から極悪人まで、多種多様だと思われる。


「死神様、その内容は機密事項です。」


 突然無機質な声が聞こえたかと思うと、白装束の一人が近くまで来ていた。


「あれ?そうだっけ?やっば、知られたら怒られそうだから内緒だよ!」


 死神は魔王と白装束に向けて、口に指を当ててシーッとしている。

確かにそんな事が地上の者達に知れ渡ったら、大混乱になるだろう。


「それより何か用かい?」


「創世神様より、急いで連れて来いとの伝言を預かっております。」


 無機質な声ながら、急いで欲しいと言う感情が少しだけ伝わってくる。

そして創世神と言う神は魔王も前回会った事があるので覚えている。


 世界を創る事が出来る、創世の概念を司る神であり、神界や数多の世界を創った全ての始まりの神でもある。


「も~、今着いたばかりなのにせっかちだな~!せっかく魔王君に神界を少し案内してあげようかと思ってたのに!」


 死神は白装束の伝言を聞いて不満そうに愚痴を溢す。

創世神の言葉を無視するのも難しいのだろう。


「残念だが仕方ないだろう。道すがら見える範囲で教えてくれ。」


 魔王としても残念だと言う気持ちはある。

神界に意識ある状態で来られる機会なんて二度と無いかもしれない。


 様々な場所を見て回りたかったと言うのが本心だが、あまり自由に動いても神々の迷惑となってしまうかもしれないので自重する事にした。

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