死体で殺人鬼で悪魔らしい

青海夜海

精神安定剤と言う名の殺し合い

 嘘を着く。どこにでもいる嘘を吐き、当たり前の日常に愁眉。

 朝、目を覚まし大歓声を浴びた。時より負のオーラが混ざり、銃声が響き私は死ぬ。それを何千、何万回と続けて銃声の次の光景がやって来る。

 痛みはない。弱みもない。心もない。

 そう、私はロボット。アンドロイド。そう為りたい人間。だから正直痛いし眠たいし死にたいし辞めたいし辛いラーメンも食べたい。でも、誰もそんな私を望んでいない。

 私に望まれているのは無様に死ぬ姿。晒しもの。現実の死体。殺しても生き返る死体。殺しても罪のない存在。死にざまを嗤える存在。それが私。

「へい彼女!今日もビックリ死んでくれよな」

「お嬢ちゃん、君の死にざまは実に可憐で美しい」

「前の腸が漏れ出たのは最高だったぜ!次は尿を垂らしながら死んでくれよな」

 おい、乙女になんてこと言うんだ。私は憤慨する。誰とも接触でない私、画面の向こうで偶像のようにただ座っているだけの私に民衆はそう口々に私の死を褒め称え喜び願い事を言った。

 なんでも、死んだ私に願い事をすれば願いが叶うらしい。

 なら、死ぬ私はどうしたら願いを叶えられるのかな。

 次の日、剣でぐさぐさと刺されて殺された。刺す男はとにかく穴に何かを突っ込めたい男らしく、私の口に必要に剣を刺して来た。その後、胸とか腹とか目とかやられて、私の性器に手を伸ばしかけてR18と男は射殺された。

「女の尊厳を奪う奴は死ね」

「ここは性欲を発散するとこじゃないのよ」

「死ね死ね死ね」

 男は翌日、裸にされて民衆の前で焼かれたらしい。性器は斬り落とされていたとか。

 そういった情報は画面の向こうにいる私、向こうから見ればテレビの向こうでお行儀よく鎮座している私に笑い話のように語ってくれた。

「あの人、近所のおばあさん殺そうとしたんですって」

「そう言えば内の夫が不倫してて、近頃殺してやろうと思ってるの」

「ぼくね!きょう和人くんにばかっていわれた!だからね、あしたころしてやるんだ」

 世間話のように殺す殺す殺すと出てくる。

 なら、私を殺さないでもいいじゃない。

 この国にはルールがあった。法則とも言う。

 ――人を殺すことは精神を保つ上で必要である。故に人殺しは正当な理由がある上に罪とはならない。

 つまり、不倫されたら殺していい。馬鹿にされたら殺していい。金を盗まれたら殺していい。精神が病んだから殺していい。人の娯楽、精神安定剤のために殺していい。

 私の存在。死んでも生き返る私はなるべく死を殺さないようにするための予防策であって娯楽ではない。けど、娯楽なのはそれが精神を安定させるから。楽しいことがあれば人の心は病まないらしい。

 と、そんな理由で私は33570回ほど殺されたわけだけど、そろそろ私としては限界だった。

「明日の死体も楽しみにしてるね!」

「君の死ぬのを見ると心が安定するんだ」

「私ね!あなたの死に顔がとっても好きよ!そう!愛しているわ!」

「私も、死体のあなたと一緒に暮らしてみたいわ。きっとこれ以上ない幸福なのでしょうね」

「俺の恋人になってくれよ。そしたら毎日俺の手で殺せるんだぜ」

「嗚呼、僕の手で、あなたの身体を貪るように殺してあげたいよぉ」

 端的に言おう。この国は狂っている。

 そう、狂っているのだから仕方がない。

 そう、私の精神を守るために国民全員を殺すことも仕方がない。

 いや、ルール通り、正当な理由があり精神を安定させるために仕方のない事。

 次の日、私を殺すのに用意されたの爆弾だった。闘技場の真ん中に立ち尽くす私に爆弾が投げられる。私はそれを蹴り返した。

 爆発。爆弾を投げたピエロの身体が爆ぜた。

 会場も爆ぜるほどに盛り上がった。

 100個の爆弾、すべてを蹴り返す。企画者、関係者諸共死に、腹が捩れるほど嗤い尽くした民衆も吹き飛んで死んだ。

 その後、私のために用意されていたありとあらゆる殺害方法や道具で人を殺していく。

 数百人、数千、万、桁が増え、億に達する。

 途中で歓喜や笑い声は泣き声と恐怖の声に変わっていった。

「化け物!」

「殺されるべきはお前だ!」

「その殺人は正当な理由がない!」

「私たちの精神を侵害する!」

 だからこう言い返した。

「私は病んでる」

 それだけで民衆は口を閉ざし、私はその首をへし折ってナイフで心臓を貫き、爆弾を口の中に押し込みライターもついでに押し込んだ。

 爆発して私も死ぬけど、私は生き返る。

 そうして、数年に渡って人を殺して殺し尽くした時、やっと私は気づいた。

「この世界に人間はいらない」

 私は死なない。それを人間の世界じゃ吸血鬼とか人魚とかなんかそう動物の名前で呼ぶらしい。あとはゾンビとか。

 私はそれらを一括りにした存在だ。

 結論を言おう。私は人間じゃない。当初、人間から見た私は家畜だった。けれど、家畜は教養を付け心を持ち人間を学び知り自立した。

 私は地球外生命体と言うらしい。名前はまだない。

 だから最後にあった人間に聴いてみよう。

「私の名前をください」

 そう、聞いたのはそれから数千年の後の世界で、男は「悪魔」と答えた。


 チクタク。秒針の音に眼を覚ます。

 今、私は未来予知を見た。

 どうやら私は死体になって殺人鬼になって悪魔になるらしい。

 それはちょっと嫌なのでどういにかしようとする。

「そうだ。この世界から逃げよう」

 そうして私に物語が幕を開けた。

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死体で殺人鬼で悪魔らしい 青海夜海 @syuti

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