初日09:23:10/日向町立図書館/北原直人
なんとか駐在警官の追撃をかわして、一安心した後、地図に従って橋を渡り、図書館についた。
小さい図書館だ。まぁ、この町の規模からすれば十分すぎるほどに大きいともいえるが。
「こういう時は何で調べりゃいい?」
中に入り、入り口を適当なテーブルでふさぐと、朝だというのに暗い図書館を歩き始めた。
手に持った懐中電灯で、本棚の端についているジャンルが書かれた紙を照らしながらあてもなく歩き回る。
小説?見てる暇はない。
伝記?違う。
郷土資料・・・?
俺は、ふと目についた郷土資料という文字にひかれて、郷土資料コーナーへと足を踏み入れる。
そこにあったテーブルとイスは少し乱れ、床には血痕。
ここで何かがあったのは間違いない。
「奴らは死んでも起き上がるからな・・・この血も奴らのものか・・・」
顔を顰めて、そうつぶやく。
改めて本棚に目を向けると、とりあえず適当に、「日向伝承①」と書かれた古い本を手に取る。
そして、血痕のついた床から離れたところにあるイスに座り、ページを開いた。
中はこの町に伝わる伝承について書かれていたが、独特すぎるというか、何か悪い電波を受けた人が書いたような文体で、気分が悪くなってきた。
それでもしぶとくページを進めると、書いている人物が変わったのか、まともな文章のページが現れる。
「ビンゴ・・か?」
書いてあるのは12年に一度行われる儀式についてだった。
なにやらねずみ年の8月に行われる秘祭の類だそうだが・・・
存在が示唆されているだけで詳しくは書かれていなかった。
ただ、今迷い込んでいるこの町は1972年当時の町なはずだ。
たしか・・・ねずみ年だったな。
俺はそう考えながら本を閉じると、本を元に戻し、次の本を取ってくる。
そしてイスに座りページを開くと、入り口付近から轟音が鳴り響いた。
「!」
一瞬で本を放り投げ、本棚に身を隠すと、そうっと顔を出し、入り口の様子をうかがう。
「なんでもありかよ畜生が」
入り口をすさまじい力で叩いている人影が2つ。
ともに、元々は人間だったのかと思えるくらいに原型を留めていない。
2人とも、半分消失した頭からは、赤い霧が出ていて、さらにそこからは何か昆虫の足のような、触覚のようなものが生えている。
着ている服装からして図書館横の学校の生徒なのだろうか?
血にまみれ、変化のせいなのか、ボロボロになったセーラー服と、学ランからそう判断できる。
つまりは俺よりも一回り以上若い子だ。
そんな子供ですらこうなる。
俺は背中に冷や汗を流し、図書館の扉を破壊せんとする様子を眺める。
気持ちを落ち着かせて周囲を見回すと、入口の反対側の壁に、読書スペースと、窓が見えた。
そこから飛び出すほかない。
ここで待って、見つかって、撲殺されりまうよりかはマシだろうさ。
俺は息を止め、できる限りの力を振り絞って走り出す。
背後では、ちょうど入り口を壊し終えたような音と、奇声が聞こえた。
「畜生が!」
無我夢中で窓に飛び込む。
映画のように窓を突き破り、あてもなく赤い霧に紛れていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます