初日00:50:54/交番/桐原真由

霧が深かったことをこれほどありがたいと思ったことはない。

正美さんの手を握りしめて、勇気を出して町役場のような建物を脱出してから、私たちはうめき声がしないほうへと、早歩きで向かって、交番にたどり着いた。


うめき声は、海の音がする方角から多く聞こえ、人の気配(人ではないのだろうが)が多かったが、この辺りはまだ人がいないみたいだった。


「誰かいないのかな?」

「いたとしても・・・もう・・」


私達は交番にあったイスに腰かけた。


「この企画・・・誰が通したのさ?」

「知らないよ・・・いきなり上司が持ってきて、ロクに説明もされずに行け!って」

「こっちもいきなりマネージャーから言われてこれよ・・・なんなの?この町は・・・」

「生きて帰れたら真っ先に仕事辞めるわ・・・」

「ええ、しばらくはなにもできなさそう・・・」

「そういえば北原さん、大丈夫かな」

「最初から彼だけいなかったものね・・・」


不安を紛らわせるためか、私達は妙に早口で会話する。


「急に変なところに行かされて・・書類も昭和のものしかないし!」


正美さんは机の上の日誌的なものを勝手に開くと、書いてある日付を見て投げ捨てた。


「夢なら醒めて!って叫びたいわ」


私もそれを見てあきらめたようにつぶやく。


「あー・・・誰かマトモな人はいないわけ?」


正美さんがそういった時、破裂音が私たちを氷漬けにした。


「え・・」


恐怖に震える体に鞭を打って交番の入り口を見ると、警察官のような恰好をした男がこちらを向いて立っている。


「ひ!・・・」

「イヤ!・・・誰か、誰か、誰か・・・!


声にならない悲鳴とともに、私は正美に抱き着いた。

正美も私に抱き着いていてガクガクと震えている。


目の前の男は、頭の半分が消失し、顔面をおびただしい量の血で染め、目からは赤黒い何とも言えない光を放っているた。

体も血に染まり、足や手は明後日の方向に曲がっているものもある。

そして手には拳銃・・・それがこちらを向いており、黒光りした銃身は私をしっかりととらえていた。


スローモーションのようになった時の流れは、私に必要のない、欲しくもない情報をくれた。


だが、その死ぬまで続くかと思われたスローな時間は、もう1発の破裂音で終わった。


警察官風の男の足から血が噴出し、目の前の化け物は悲鳴を上げて膝をつく。

化け物は頭を常人以上の速さで後ろに回すと、目の前に迫った木製の何かを視認する。

”それ”は頭にクリーンヒットし、化け物は首付近から骨の砕ける嫌な音を発して地に伏せた。


「助かったの・・?」


私たちは、目の前に仁王立ちする人の前で、情けなく腰が抜け、地面に座り込んだ。

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