初日00:09:36/日向町役場/多野正美
「・・・・・」
私はつい先ほど聞こえた破裂音のような音がしてから動けないでいた。
部屋の隅っこで小さくなっている。
私の横にいる彼女もおそらく同じだろう。
恐怖と不安の表情が読み取れた。
私とて大差はないが。
彼女の名前は桐原真由。地方テレビ局のキャスターで、お盆に向けてのホラー特集のために、”幻の町”と呼ばれる日向町にやってきたわけだ。
私はそれを記事にしようとくっついてきたわけだが・・・・
ついさっき、日向町があったとされる場所の近くまで足を踏み入れた時、急に視界が暗くなり、目が覚めると、見ず知らずの建物の中にいた。
真由以外のテレビ関係者とははぐれてしまって、私たち二人で、とりあえずこの建物を調べたのだが、分かったことは、にわかに信じられないことだった。
「これ、1972年付の新聞よ・・・それも、町が消える1日前の・・・」
古い、くたびれた新聞を手にした真由が小声で言う。
「ええ、この建物にあるものも、古臭いのばかりだわ・・・いったいどうなって・・」
私がそう言っている最中、建物の奥のほうから、派手な音がした。
私たちは一瞬、叫びそうになったが、必死に声を押し殺し、小さくなった。
「・・・」
こんな廃墟に人がいるとも思わない。
だが、派手な音がしてからは、何かを引きずるような音がひっきりなしに部屋に届いてきた。
人・・・なの?
こんな夜遅くに・・・?
「・・・」
部屋の隅っこ、さらに言えば、机に影に隠れている私達。
机の隙間から見える、かすかな光景に、全神経を集中させる。
引きずる音を発する”何か”は、人だった。
いや、正確には、人の形をした何かというのが正しいか。
「ひひ・・・あの・・・・・・・女・・・逃がすな・・・よ」
血まみれで、左腕は欠損し、顔は半分消失している。
声を出す声帯がある部分は、おびただしい血が流れて、変に押しつぶされており、なぜ声が出るのかわからないほど。
そんな、死んでいて当然の異形が、目の前をゆっくりと通り過ぎた。
私達は、それを見て、悲鳴を抑えるのに必死だった。
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