【中編】奴隷の私と優しいご主人様~チート能力無しで異世界転移して、奴隷になってしまった私の物語~

羊光

奴隷オークション

 異世界転移と言われて、何を想像する?


 チート能力で無双?

 現代知識で無双?

 元々持っていた技能で無双?


 王様になる?

 英雄になる?

 勇者になる?


 それとも魔王や神様?


 残念、現実は…………


「さぁ、今度の奴隷は珍しい黒い髪に、黒い瞳の女奴隷だ!」


 私は現在、奴隷オークションへ出品されている。


 …………ふざけるなよ、コノヤロー!


 森で目が覚める→盗賊に攫われる→奴隷商人に売られる→奴隷オークションへ出品(イマココ)。


 …………本当にふざけるなよ、コノヤロー!!


 こういう時は何かしらの能力とかに目覚めたりするものじゃないの?


 魔法がある世界みたいだけど、奴隷になった時の鑑定で私には魔力がない、って判定が出ているし、ここからどうやれば『私TUEEE」が出来るのかな!?



 シーーン、とオークションが静まり返る。



「チッ、やっぱり珍しい、って言ってもこんな地味で貧相な奴隷を買いたがる奴はいないか」


 おい、奴隷商人デブ、聞こえているからな!

 私、この場でギャン泣きするよ!?


 異世界転移のお約束の一つ、言語理解の省略はしっかりと備わっていた。


 私にはこの中世ヨーロッパっぽい世界の人たちがしゃべる言葉も、文字も理解できる。


 親切だね、ありがとう。

 おかげで自分がどれだけ救われない状況かもちゃんと理解できたよ!


 ちなみに私は出品される前に得意なこと、出来ることを聞かれた。




「コクゴとニホンシが得意です、って、なんだそれは? 訳の分からないことを言いやがって、もっとマシな特技は無いのか?」


 これは出品前に言われたことだ。


 ただの高校三年生帰宅部、趣味は小説、漫画、アニメ鑑賞だった私に何が出来ると思っているのかな?


「まぁ、処女みたいだし、そこだけが強みか」


 あはは、捨てる機会が無かった処女がここで価値を持つなんて思わなかったよ!


 買われたら、強制処女喪失だろうけどね!!




 ――――とまぁ、買われる覚悟というか、諦めはあったのだけれど、会場は完全に沈黙した。

 

……待ってよ!

 私にはまったく価値が無いってこと!?


「あ~~、すいません。値段を下げますね」


 奴隷商人デブが言う。


 ちょっとオークションって値段を釣り上げるものでしょ!?

 なに下げようとしているの!!?


 一体どれだけの価値が私に付けらるか、それを最後の楽しみにしようと思っていた。


 もしかしたら、何人かで競売になって、値段が釣り上がるかも、とか呑気なことを考えてさえもいた。


 なのに、この仕打ちは酷過ぎない!?


 もうヤダ!

 

 誰かナイフ持ってきてよ!

 

 今すぐ死んで異世界転移をリセマラしてやる!!


 というか、値段が下がったのに誰も買おうとしない、ってどういうことかな!?


 そこまで私って価値が無いの!!?


 色々なことに絶望していると……


「あ、あの、は、初めの値段で買わせてください……」


 その声は小さかった。


 多分、会場が静かになっていなかったら、聞こえなかったと思う。


「本当に宜しんですか? 今なら半額で構いませんよ?」


 おい、奴隷商人デブ、私は閉店寸前のスーパーのお惣菜か?


 本人が元の値段でいい、って言うんだから、そのままの値段で買ってもらいなよ!

 私には何も得が無いけどね!!


「良いんです……」


「はぁ、それなら元値でお売りしますね」


 なんで残念そうなんだよ。


 喜べよ。笑えよ。


 私はまったく喜べないし、笑えないけどね!


「それでは落札です」


 私は首輪に繋がっている鎖をグイッと引っ張られた。


 舌を噛みそうになる。


 抵抗はしないから、もっと丁寧に扱ってほしい……


 私は引っ張られ、私を買った青年の前に連れて行かれた。


 遠目では分からなかったけど、私よりも背が低い。

 歳は同じくらいだと思う。


 虫も殺せないような顔をしている。


 正直、こんなところで奴隷を買うような人には見えなかった。


「それでは主人と奴隷の契約をお願いします」


「は、はい!」


 青年は緊張した様子で私の首輪に手を伸ばした。


 首輪は私に見えないけど、何をしているかは分かる。


 奴隷オークションへ出品される時に説明があった。


 この青年が魔力を流しているのだ。


 そうすることでこの首輪は青年の魔力と連動する。


 もし、私が反抗的な態度を取れば、お仕置きが出来るのだ。


「それではお買い上げ、ありがとうございます」


 こうして、奴隷の私は同じくらいの歳の青年に買われてしまった。

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