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それから数十分後。

ロータリーの、向日葵が咲き乱れる花壇の周囲に町の人が集まった。

いつもの面々に、学校の先生や、小学生クラスの子供達…それに役場の人や漁港の人まで…

由紀子が、ひいては彼女の親が慕われていたことが伺える。


すでに彼女の家の物は纏められて、業者が運んで行った。

あとは、彼女の家の車で持っていける分だけらしい。


その車は、花壇の前に止められていた。

今年買ったという新車の青いブルーバード。

室内には、家族3人分のスペース以外は荷物で埋め尽くされていた。


私はひとしきり挨拶回りを済ませた由紀子の横で、何も会話を交わさずにいた。

浩司も、義昭も、加奈もいたが、会話どころか口すら開かない。


彼女の親が挨拶を終えたとき、写真館の館長が全員を花壇の前に並べた。

咲き乱れる向日葵と「またのお越しを!」と書かれた看板を囲んでの記念撮影だ。


それを終えると、いよいよお別れ。

私はシャッターが切られる音を聞きながらそう思っていた。


「おじさん!最後に私達でお願い」


撮り終わった後、由紀子が私達を手招きしながら叫ぶ。

写真屋のおじさんも察してくれたのか、快くカメラを持ってきてくれた。

「ようこそ日向町へ!」の看板まで移動して、5人並んでポーズを取った。


1枚目は皆無表情で。

2枚目は少し表情をつけて。

3枚目はポーズを取って。

4枚目は、そのまま最高の笑顔で……


「この写真、今日現像して明日には渡すからよ」

「ありがとうございます…お代は…」

「いいさいいさ、だがな?ちょっとこの写真使ってやりたいことあっからそれでチャラにしてくれないか?」

「え?はい」


私がそういうと、いよいよその時が来た。

そして、それが終わった後、由紀子は青いブルーバードの後部ドアを開ける。


「じゃあ、またね」


さよならとは言わない由紀子。

私達もクスッと笑うと手を振る。


「ああ、またな」

「また、今度」

「じゃあね…」

「今度ね!」


絶対にサヨナラの4文字を使わない。

そのまま、彼女を乗せた車…由紀子たちは町を後にした。


車が見えなくなって振り返ると、ふと我に返る。

終わってみればあっという間だった。


あれだけいた人達も、すでにこの場にはいない。

子供たちは遊びに出かけ、先生も大人達も仕事に戻った。

ロータリーの花壇で何時までも立ち尽くしているのは、私達だけだった。


加奈が薄っすら涙目になっていて、義昭がそれを笑って茶化している。

彼も薄っすら来ているがそれは指摘しない。


私は浩司の横に並ぶと、そっと彼の背中に手を回した。


「戻ろうか…」


私はそういって一歩踏み出す。

浩司は何も言わずに義昭と加奈に合図を出すと、私達もロータリーから離れていった。

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