FILE:16 ―― 国家転覆の謀

―― そのため、ナカムロはある交渉の席についた。

「で、ゾンビが一番に頼るのが僕ってワケ? なんか傷つくなぁ」

 白衣を新調したナカムロが、アンモラル・埴との交渉の場を設定したのは、名も無い山裾やますそ茅屋ぼうおくだった。

 埴は護衛を連れることもなく、相変わらず笑顔の赤ちゃん仮面を着けている。

「無駄ナ゙会話ヮイラン。一万のゾンビで東京新宿ヺ襲ゥ゙。テツダエ」

「なんで自分たちでやんないの? 」

「我々の勝機は、先制攻撃にあル゙。人間に゙見つかる前に゙、こちらガら仕掛けル゙」

 埴は仮面の奥で考えを巡らせる。

「(コイツ、日本以外じゃゾンビ劣勢だって分かってるのか。日本でもそのうち自分たちが狩られる側になるのが理解できてる……ジーニアスの中でも特に賢いか)

 で、アンモラルが頑張ってるから、それにあやかりたいってこと? 僕たちに何のメリットがあるのさ」

「そんなコト自分デ考えろ゙」

「そっか。強気だね。

(たしかに、もっとデカい火をおこすには戦力がおぼつかない。けど、その補填先がゾンビねぇ)」

 この時、埴はまだ福井原発を爆破していない。考えてすらいなかった。

「(コイツらの力が必要なのは間違いないけど、裏切ってこないとも限らない。どうしたもんかな)

 で、東京襲ってその後どうすんの? 」

「次の都市ヺ破壊、す、ル゙」

「(ま、それしかすることないか。ゾンビだもんな)」

 埴はわざと長考したフリをして、ゾンビの表情を伺った。知性があるゾンビなだけに、グズグズになった顔であっても、ほんの僅かに心の動きが見える。

「あ、面白いこと思いついた」

 そして、原発襲撃が発想される。


 福井原発爆破直後。

 樹海に潜伏していたゾンビ一万は速やかに行軍を開始。ジーニアスのカナモトが先導し、道中のゾンビも吸収して勢力を拡大させつつ移動。その大行進の様子は、国営テレビでも中継された。

 その数は、


―― 再び交渉に遡る。

「ゾンビ君。作戦はこうだ。勝負は三週間で決める。

 まず、作戦初日に福井原発を爆破。

 そこから二週間で、潜ませていたアンモラルを一斉蜂起させる。国をパニックに陥れるためにね。

 それから最後の一週間で、アンモラルは東京の主要な建物を同時に陥落させる。注意は僕たちに向く。国家も威信をかけて僕たちを滅ぼそうとする。

 注意が向いてるうちに、ゾンビ軍団は東京に到着。

 けど、ただ東京に向かっても道中で対処される。いくつかに分けていこう。

 群れの一部……そうだな、二〇〇〇を、わざと目立つように高速道路を利用して行進させるんだ。

 残り八〇〇〇は、山を越えて埼玉側から東京に入る。君たちの体力ならできるはずだし、わざわざ山の隅々までゾンビを警戒してる連中はいない」

「貴様ラだけで負けナ゙ゐのか? 」

「大丈夫。仮に負けても、実行するだけで価値があるよ。なにより僕さえ死ななきゃイイ」

「そうヵ」

 ナカムロは訝しむが、埴の真の目的は読めない。

「(もちろん、君たちゾンビは一段落ついたら皆殺しだ。

 そのうえで、アンモラルの地位をテロリストから、治安維持のための必要悪にまで格上げする。それだけで世論の数%を獲れるなら旨い)」

「分かッ゙タ。その作戦に゙乗る」

「交渉成立だ。安心していいよゾンビ君。この国じゃ正義より悪のほうが強いから」





―― 次回へ続く。

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