深痕のミシア ―5.タリア編「ずっと、こうしたかったの…」―

真田 了

序(エピソード主役:カルディナ)

扉を開いて、ひとりの少女が部屋に入ってきた。

カナっち「やあやあ、きょちょっち!カナっちのこと、呼んだかな?」


いや、少女ではない。

彼女はシルフ人だ。シルフ人は成人しても他の人種より背が低いので子供と間違われることも多いが、彼女もれっきとした大人の女性だ。…言葉遣いはともかく。


局長席に座っているエルフ人の女性が返事をした。

局長「カルディナ、よく来てくれたな。…別に君の喋り方に文句を言うつもりは無いのだが、その「きょちょっち」というのだけは、どうにかならないかね?」

カナっち「どうしてかな?局長っちじゃ長くて言いにくいから、きょちょっち。いいと思わないかな?」

局長はそれを聞いて溜息をついた。

エルフ人にしては大きい方である胸がつられて揺れる。


アスカサフレ「局長、溜息をつくと幸せが逃げると言いますよ」

カナっち「おや、アフっちも居たのかな?小さくて気が付かなかったかな!」

アスカサフレ「カルディナさんの方が背が低いのですが。それに、隠れもせずに立っている人物を認識できないとなると、目か頭に異常がある可能性があります。早急に医士に診ていただくのがよろしいかと思います」

局長の前に立っていたオラク人の女性が振り返り、至って真面目にカルディナに答える。


カナっち「なはは~!アフっちは相変わらず冗談が通じないかな~」

カルディナは笑いながら歩いてきて、アスカサフレの隣に並んだ。

確かにアスカサフレも背が低い方だが、カルディナの方が頭ひとつ分は低い。


カナっち「それで、今日はどんな用事なのかな?もしかして…」

局長「察しが良いな。その通りだ」

カナっち「おー!久しぶりに探偵稼業かな?!カナっちの灰色の脳細胞が火を吹くかな?!」


アスカサフレ「それは大変です。急いで消火しないと」

アスカサフレは水がたっぷり入ったバケツをさっと手に持った。

カナっち「どうしてそんな物がここにあるかな?!」

アスカサフレ「こんなこともあろうかと思い、用意していました」

カナっち「用意周到すぎかな!?」

アスカサフレはニコリともせず、冷静だ。冗談を言っているのか真面目にそう思っているのか、表情からは判別できない。


局長は再び溜息をついた。

局長「それくらいにしておけ。まったく、お前の脳みそが灰色なのは、焦げついているせいなのか?」

カナっち「なはは、これは失礼したかな。というか、きょちょっちも微妙に失礼じゃないかな?」

局長「さて、本題だが」

カナっち「無視かな?!」


局長はアスカサフレの方を見た。

局長「アスカ、説明を頼む」

アスカサフレ「了解しました。それでは、離散的行方不明事件について、説明を始めます――」

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