モルモットの涙
笠原美雨
第1話 PKとは何か
もし不思議な力が使えたら、透明人間になれたら、はたまたテレパシーが使えたら………。人は嬉しいだろうか。人と違う自分になることは怖くないだろうか。
「PK」とは何だか、ご存じの方もいれば、もちろん知らない人もいるだろう。彼女もまた、「PK」を知らずに会得した、一人の人物であった。
それは冬の始まり。ふとしたかけらが彼女に力を与えた。それが良い方向にいくのか、悪い方向に行くのかなんて、まだ誰も知らない。
「コイツハナンデイルンダロウ」
ある雨の日、彼女は目の前の響きに応じた。数字とは違った、聞いたことのない長い言葉。次に、
「イラナイノニ」
聞いたことのないリズムや響きに彼女は戸惑った。
西暦20xx年。彼女はロボットに育てられていた。実験用モルモットで、名前はない。生まれてまもなく研究所に棄てられ、とある実験台となった。健常な人間に言葉を与えず過ごしたらどうなるか試す実験だ。
彼女にはプログラムが組まれた。
「1三歩成、同玉、1四香打。同玉、1二飛、1三銀、2五桂まで」
テープに録音された詰め将棋。これは言葉にならないのか、疑問だ。だが彼女には詰め将棋をして、日常作業をして一日が終わる。彼女に与えられる言葉は、詰め将棋。
日々を無にして過ごす彼女が過ごすhoumeでは雨が降っていた。冬の始まりを告げる雨。屋根に降る雨。非常階段を穿つ雫(しずく)とは違う音がした。
彼女は十二才。言葉をまだ知らない。
彼女は十二才。
言葉を知らずに育っていった。
彼女は…………、
言葉を、まだ知らない。
誰も彼女を愛さない、愛せない。側にいるのはロボットだけ。言葉を知らない彼女は、言葉の彩りを知らなかった。感情もない彼女は、まさしくアンドロイドのようだった。淡々と日々を、淡々と過ごしていく。彼女にあるのは、タイムスケジュール。ある日――、
「コイツハナンデイルンダロウ」
とある雨の日、何かが心に響いた。言葉を知らない彼女には、長いリズムとしか感じられなかった。
「イラナイノニ」
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