キス
クースケ
第1話 …の練習台
「久しぶりー、元気かあ?」峰岸 超こと私の幼馴染は慣れたように私、三泰 香織の部屋に入るとベンチ風椅子に座る。
「うん、久しぶりー」高校生になってから3ケ月ぶりにあう。超は自宅から1時間かかる男子校へ行っている。私は、自宅から15分で行けちゃう女子高へ通っている。中学の時は、同じ部活に入っていたので朝も帰りもほとんど毎日一緒だった。
「で、なんだよ」頼み事があると、メールで呼ばれた。
この部屋はほんの数か月前まではほとんど毎日かよっていたが、今は新しい環境に慣れるためと高校でも部活をしているから帰りは遅い。まして、それからバスに乗って帰ると疲れて寝るだけになる。
「…の練習台になってほしいの」
みなれた顔だが、高校生になった香織は、髪型も髪の色もオシャレになって大人っぽく感じた。
「何の練習台だって?」語尾が聞き取れず、ききなおす。
「…の練習台」
「聞こえねぇよ」
「…の練習台」
「ハア?やっぱり、聞こえねぇ。最初の部分だけ大きい声で言えよ」」
「もぉ。キ ス。聞こえた?」顔を赤らめながら、はっきりと大きくわざとらしく言う。
「えっ。キスって? 聞こえたけど」予想外の言葉に少し、ドキッとしながらも言葉を返す。
「学校で、5名ぐらいの友達グループができたんだけど。今、グループ内の話題がキスなの」
「キ・ス」あらためて、見慣れているはずの香織の身体や顔を見てしまう。
「あくまでも練習台だからね」照れながら、何やら鞄から取り出してくる。
「なんだよ。それ」持ってきたのは、ビニール袋に入った真新しい下敷きだ。
「これを間に挟むんだよ」と、楽しそうに笑う。
「なんだよ、そんなのいやだね」むきになって拒否する。
「ごめん。そんなに嫌がるなんて思わなかったから」高校生になって最近、会わなくなってこのままじゃあ嫌だなって思って…。何かきっかけがほしかっただけなのに。
「学校遠くなって、部活して帰ると家帰るの遅くてさ。まあ最初よりは大分なれてきたから。また、寄らしてもらうわ」私の思いが伝わったのか、超はそんなことを言う。
「別にいいわよ。そんなつもりで呼んだわけじゃないし…うけるかなって思っただけだから」ほんとは、会いたかったんだけど。だって、バスケットのマネージャーになったのも超がいたからなんだから。
「実は、部活の他に週に2日だけバイトしてるんだ。だから、今度何かおごっちゃる。だから、他の誰かとキスなんてぜっーたい嫌だからな。下敷きを間に挟んだとしてもだ。じゃあ今日はもう帰るわ。落ち着いたらメールするから」と、拗ねたような怒ったような顔をする。
「それって。どういう意味⁈」超も少しは、私のことを気にしてくれてるの?
「わっわかった、メール待っているから」久しぶりの超の顔は、少し男っぽく感じられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます