第6話 そして全てが裏返る
と、いう妄想と狂言と妄執に塗れた戯言を自分以外の199人が抱いているのを知っている。
(で、どうする?このまま神様にでもなっちまうかい?)
『遠慮願いたいね』と、意識に沈む
彼女彼女と盗み聞く周囲の内心が煩いが、自分の言葉足らずと行動はああいう風にも受け取れるのだと考えればと多少の面白さはある。
【ただ、責任を負うのも。サバイバルするのも、最早疲れて未来が怖かったし、自殺するのも度胸がなかったから志願した。といっても信じてくれなさそうだなぁ。】
(そもそもあそこが箱庭ゲームの舞台だってのも信じねぇよ)
それはそうである。
唯一それを知るのは、〈厄災のリポノア〉こと舞台装置の『トリックスター』に選ばれた役者のみ。
あの世界は神様たちの遊び場。
異世界転生やらなにやらの良くあるお話を、自分たちの手で引き起こして演じて操作して遊ぶための場所。RPGを丸ごと作ったといった所だろうか。
世界の危機も邪神も女神も、あの異世界の強大な力を持つ存在は全部役者でテコ入れである。
その最初の見せ場にして花形舞台装置が『トリックスター』の選出。
この〈厄災のリポノア〉と名乗った邪神側に立つ一人を決めるイベントである。
大体、自分たちの様に職場やクラスメイト、何かのグループなどのある程度の互いの認知のある集団を選んで召喚するので、押し付け合ったりなどの泥沼はより深刻になり、選ばれた一人は他の全員に恨みを抱く。
そしてそれを利用して、可哀そうだから力をやるとか真実を教えてやろうとかそれっぽく言って番狂わせ役をさせるのだ。
そうして暴れまわる最初の自分たちの罪に対して、嫌悪を示した残りの女神側舞台キャラはより一層修羅場を作り上げてくれるのだとか。
箱庭の事実を知った『トリックスター』役は他の召喚者にそれを告げるのも許されているが、大体は信じられないし帰還したら関係ないと思われて討伐されて終わるらしい。
自分の場合、志願した上に遺恨もなかったが故にリポノアこと『トリックスター』が困り果ててしまった。役を演じるリポノアを目の前にして、本気で死なない事を惜しみ嘆いた自分を役も忘れて慰めてくれた
本来、役割か役者名しか持たないが故に、リポノアかトリックスターと呼んでくれと言った相手は、「何もしたくなければ全部任せてくれても良い」と提案した。
一度取り込まれたトリックスター役は、役の調節や演出の為に時間が必要となる場合が多いので異世界側に降り立たない限り時間経過は存在しない。
メンタルケアとカウンセリングを繰り返し、自身の精神が落ち着いた結果全力で感動的で後味の悪い演出をすることにした。
それがあの<
世界規模のお遊びに巻き込まれていようが、全く関係ないのに滅茶苦茶世話になった恩しか
異世界での行動は生きてなきゃできないよね?全部最初の犠牲者がいたから成り立ったよね?お前らが殺したはずの相手を〈厄災のリポノア〉は生かしてたんだよ?一緒に恩人殺すの?最初から最後までアンタらひでぇな全部犠牲の上に成り立ってたんだよバーカ、見捨てた役立たずを最後まで嬲り続けた御感想どう?と言う事である。
まあ連中は何処まで行っても綺麗事に変換して、罪の棚揚げが上手だったので≪彼女≫を神聖化したわけだが。
本来であれば、結果がどうであれ死亡すれば〈帰還〉は果たされる。
ただのゲームオーバー、死後も観測できるのは精々死んだことになっているトリックスターとその役のみ。他の役者は意識も肉体も全てその瞬間で止められたまま、死亡までの記憶しか持たず、召喚された時に全員が戻されるのだ。
殺した相手も見殺しにした相手も、すっかり看取って過去に弔った相手も熱い絆を結んだり家族を作ったり、嬲った相手すら何事もなかった時と同じように生きて記憶をもって目の前にいる。
そうなった時の混乱と修羅場は予想に難くないだろう。
ここまで語れば、この連中の≪彼女≫への妄執は異常であると分かると思う。
使命を完遂するという事は寿命まで生きていた奴がいるという事。リポノアを殺し、世界を整えて寿命でポックリ逝ったのだ。短命だった奴だっているだろうが、長生きした奴は異世界あるあるの長寿にすらなっている。
優に数百年、≪彼女≫を覚えていた奴がいる。自分の遺恨より、≪彼女≫への執着を優先した奴がいる。【能力】に溺れても≪彼女≫を心に焼き付けた奴がいる。
その
どれ程悍ましい事かご理解いただきたい。
しかし、全部終わってボーナスステージみたいな雰囲気を社内の連中は醸し出しているのだが。
この箱庭ゲーム、帰還してからが本番だったりする。
これは一つの世界で起こっている、人間を使ったお遊び。
彼方の娯楽はこちらで娯楽、実質同じ世界での出来事。
女神側のみで例えば200人前後を召喚して祝福して、世界環境ちょっと弄れて。などと出来るのであれば、暴れるだけの
実際は異世界の神格全員グルのお遊び、表舞台に居ずとも裏で動いている神格もいるし
そんな神様ぐるみの世界規模誘拐が娯楽目的ならば、誘拐された側の神格は勝手に人間を持って行かれることになるので聖戦勃発必至だ。
では、何故すんなりと娯楽誘拐と
異世界と言っても、神様にとっては国境を超える程度の話。
隣国同士の仲が良好ならば、手を結んで遊んでも不思議ではない。
第一幕は異世界転移。
第二幕がその因縁も含んだ異能バトル。
バトルといってもフィクションよりも遥かに地味だと
【能力】が使えるのも異能バトルの下準備だ。
【能力】すらも帰還 ――〈異世界〉で死亡する―― までに会得した能力の半分程度の力を発揮できる。これは此方側の世界仕様調節らしい、要するにパワーバランスを狂わせないようにという
文字通り世界規模の神格によって行われているお遊びが、第二幕も200人程度で済む訳がない。
―――それは〈異世界転移〉の被害者は一回で済まないという意味を持つ。
先程から前例の話をしていたが、何十と言った数のグループが同じように【能力】を以て〈帰還〉している。
それは他の世界からという訳ではない。
今自分たちが存在するこの同一世界内で、だ。
近い内にでも〈異世界転移〉を経験した先人グループに鉢会うだろう。何せ自分たちだけだと思って、どの帰還者たちも皆派手に動くのだ。
何せ『トリックスター』役の最大の利点は、全ての知識を知っている事だけではない。参加者全員の【能力】を最盛期の状態で保持しているのだ。因みにバランス調整はそれぞれについている
自分は連中の【能力】を利用して、偽装した情報を植え付けた。
勿論、精神状態のモデルは〈転移〉以前そのものだ。そこは嘘をついていない。
これから先、≪彼女≫という幻想にしがみ付く連中をどうするか迷ってはいるが、現職から転職はしようと思っている。
(なあ、そのままいいようにしちまえばよくね?)
【クソみたいなこいつらに付き合うより、異能バトルで別グループにかち合うのがまし。】
あの瞬間、
全力でかき乱してでもいなくなって見せるとも。
舞台も役者も知らず、台本に踊り繰られた
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