帰還してからが、異世界転移です
史朗十肋 平八
第1話 始まりの終わり
田舎に良くある町工場。
総勢200人の従業員が働くその場内にて、この瞬間、全員が〈帰還〉した。
青天の霹靂というには既視感が強すぎて、「夢から覚めたようだった」と後に誰もが口をそろえた。
周囲には随分の遠い記憶となった者、若しくは哀愁と共に安堵を覚える光景が広がっていて、激しい機械音でさえもほんの数秒後には唐突な現状の変化に驚いた鼓動を落ち着ける子守唄にすらなっていた。
ただそれすらも跳ねのけて、誰もが経った一人の元へと走っていた。
場所を、時間を、状況を理解した者から順に駆け出し、それにつられて全員が同じ方向へと。
場所を知らぬ者はすっかり染みついた【能力】を使って、或いは他者から記憶を引き出して『あの子』の場所へ。
布を編み上げる機械が並ぶ部屋の角、普段ならば広さの割に人がいない一画を埋め尽くすように続々と従業員が集まっていた。
担当違いならまだわかるが、場内にはいない筈の事務職や役員すら混じる中心で泣き縋り跪かれ、祈られているのは一人の女性。
ここに集まった誰もがそうしてまで、祈り感謝したい相手。
彼女は、そうして集まった者全員の〈被害者〉で〈救世主〉だったのだ。
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