転生するということ その7

 さすがにオーナーへ連絡すると、トウキョウからヤマナシ移動は勘弁してもらえました。移動で何日かかるんだ、途中で飢えて死んじまわぁ! 案件ですからね。

カツヒコさんを派遣してもらい、



「で! なんで帰らせてくれないのかなぁ‼︎」



私は今、ヤマナシ県コーフ市にいます。同窓会には行けません。

結局、冒険者さまを派遣することで発生する報酬を渋ったクソオーナーによって、


『進捗管理とかあるし、中途半端に交代するよりは、ね?』


とかいう詭弁のもと、無理矢理続投させられたのでした。


「まぁいいじゃん。路銀は持たせてくれたわけだし」

「トニコは心が広ぅございますねぇ‼︎」


今だけは私も、「シワ増えるよ」と言われても怒るのをやめられません。絶対元の世界に帰ったら、あの馬面のアゴを魔術具で吸ってやる!


「はいはい。吠えても終わらないよ。早く終わらせるって言ってたのはモノノちゃんでしょ」


あのトニコに諭されるとかいう恥を晒しながら、私はマジマの実家へ引きずられて行ったのでした。






 さて、マジマの実家アパートへ着いた我々ですが、


「……なんかさ、大体予想がつくよね」

「うん……」


トニコが短く呟くと、廊下に面した窓の隙間から静かにポツポツ独り言が。


「ねぇタイゾウ……」


思わず顔を見合わせた私とトニコ。特別見たくはないんですが、でもなんとなく覗いてみました。

 するとそこには、いかにも『家を出た息子が実家に置いていった』風情の野球グローブを撫でる、ロマンスグレーから白髪への過渡期みたいな女性が。


「タイゾウ……。どうして死んじゃったんだい?」


「……」

「……」


えぇ、分かっていましたよ。何せご自宅にも伺っていたんですから。

残されたご家族が何を思い、どういう感じで過ごしておられるかは、一度見ているのです。


「『先に死ぬほど親不孝はない』って、何度も言って聞かせたのにねぇ。あんたの父さんが早くに亡くなって、ずっとずっと約束してきたのにねぇ……。なのにどうして……私を置いて……先に……」


前言撤回、思った以上に重い過去がありました。


「でもタイゾウ。おまえだって死にたくなかったろうねぇ。痛かったろうねぇ。怖かったろうねぇ……。タイゾウ……」


その哀愁ある囁きに、トニコはで決壊。記憶を回収する私の横で、


「帰りたいよう……。お母さん……、お母さん……」


メソメソ座り込んでしまったのでした。






「ほらトニコ、しっかりして。トニコが落ち込んでると、私もちょっと頑張れないよ」


今まで散々バブルヘッドとか言ってきましたが、トニコの明るさ能天気さにどれだけ助けられていたか、なんとなく思い知らされました。

そんな状態でフラフラ向かったお次のコーナーは、彼が通った学校です。幸いにして、就職するまでは地元志向だったようで地獄の行軍をする必要はなかったのですが、それにしたって距離はあります。


「ほら、トニコ! 次は学校だから! 同窓会でもしてなければ、もう悲しんでる人いないから! 悲しい気持ちならないから!」


今度は私がトニコを引きずりながら、まずは小学校なるところへ。



 が、


「ママー! 今日の晩御飯なぁにー?」

「そうねぇ」

「よぉし! 今日はカレンも掛け算解いて偉かったからな! パパの奢りで外に食べに行こう!」

「やったーっ!」


折り悪く授業参観なるものをやっていたそうで、そこにはたくさんの幸せなご家庭の下校する姿が。



「うわあああああぁぁぁっ……‼︎」



先ほどのお母さんの悲しいお話と合わせて、トニコのメンタルは完全崩壊。往来で絶叫するコスプレ外国人という地獄を撒き散らしたのでした。


そんなこんなで苦しみながらも……。






「これで、全部かな?」

「全部って言ったら、まだ旅行先とか行ってないところあるだろうけど、そこまで網羅はできないよね」

「うん。じゃあこれで……」



「「完成だぁーっっっ‼︎」」



 あれから数日かけて、私たちはついに任務を終えたのです。

え? また随分と端折はしょったな、って?

えぇ、似たような展開ですし、もういいでしょ? 読む方も書く方もダレてきちゃいますから。



「モノノちゃん。私、元の世界に帰ったら、お母さんの手料理食べたい。いっぱいお話ししたい」

「私も手紙書く」



でも、悪い旅ではなかったのかもしれません。

そんな思いを胸に、私たちはカツヒコさんのお迎えを待つのでした。

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