メラビアンナイト その4
パールマーレフ氏の表情が一気に険しくなります。敵を射抜くような目。なんなら、さっきまで周囲でヒソヒソしていた人々も、揃ってしんと水を打ったよう。
このサイコホラー映画のような空気感に、さすがのバリバハさんと歴戦の奴隷チームも、圧を感じずにはいられません。
「それがどうしたというのだ」
先ほどまでの怒りとは、また違った険のある声で答えるバリバハさん。
すると今度は、氏も打って変わって大きな声。「とぼけるな!」と糾弾するような勢いです。
「自由! 平等! 人権! 奴隷などという
こればかりは文化と認識の違いでしょう。もちろん他者に押し付けるのはよくないことですが、しかし『郷に入っては郷に従え』。その国の法律で禁止されていることでもありますから、向こうは向こうで正当な主張をしているわけでもあって。
簡単には解決できない、越えられない壁がある問題です。学がない私にはなんとも言えません。
「何……⁉︎」
「違います! バリバハさまは私たちを愛してくださっています!」
「踏み躙られてなどいません! 大切に扱ってくださいます!」
「私たちは心と体を重ね合わせた関係なのです!」
釈明であり、もしかしたらハーレムであることを否定したバリバハさんへの訴えであったかもしれない言葉たち。
が、これも……。
「体を重ねた⁉︎」
卒倒しそうなほど体が伸び上がるパールマーレフ氏。奴隷さんたちとしては『一心同体』的ニュアンスも含めての言い方だったのかもしれませんが、
「おい! 聞いたか⁉︎」
「つまり性奴隷ってこと⁉︎」
「なんて残酷なの⁉︎」
「どれだけ人の尊厳を汚したら気が済むんだ⁉︎」
「人道に対する罪だ! 肉体だけでない、魂の凌辱だ!」
「欲望で人を食い物にする悪魔よ!」
「裁きを受けろ!」
静かにしていた街の人たちも、吹き上がるマグマのように非難轟々。
「警備隊を呼べ!」
「法のもとに罪を償わせるのよ!」
完全に一行を悪と見なしててんやわんや。これにはバリバハさんも大激怒。
「余が悪魔だと⁉︎ 裁きを受けねばならんだと⁉︎ ふざけるな!」
そして奴隷チームに、怒りのまま賽を投げます。
「よかろう! 警備隊でもなんでも呼ぶがよい! 奴隷たちよ! 皆押し並べて叩き潰してしまえ!」
「で、余罪を増やしながら、凶悪犯罪者として絶賛逃走中。代わりに僕が出廷して話の落としどころを着けないと、国際問題や戦争の火種になる。そして何より、向こうの言い分だけでバリバハの裁判が進むと、判決死刑になりかねない」
まぁ物理的に捕まることはないだろうし、死刑には処されないだろうけど……、と首を竦めるオーナー。
「それは大変なことになりましたねぇ」
適当な相槌で流そうとすると、ニヤリと私の目を視線で射ました。目が笑ってないよ……。
「そもそもモノノちゃんが、フランジュール王国の法律を把握せずにバリバハ一団を派遣するからさぁ」
「わ、私のせいですか⁉︎」
「そりゃそうでしょ。現場で考えること以外は、道中のプランも全部含めてマネジメントでしょ?」
「そ、そんな……」
逃げられないと悟った私は、せめて自分だけは逃れようとしたトニコだけでも縄で捕まえておきます。
「ギャッ!」
「というわけで、使者一人だけで行くってのも誠意がない感じなんで、使節団としてモノノちゃんと……うん、ちょうどそこにいるし、トニコちゃんにも来てもらおうかな」
「いやーっ⁉︎」
「私だけが死ぬわけがない! 貴様の心も一緒に連れていくーっ!」
「じゃ、準備してね。長旅と、謝罪
「アンギャーッ⁉︎」
悪いなトニコ、この地獄は三人用なんだ……
『本日の申し送り:実態よりも“周りからはどう見えるのか”を重視しましょう モノノ・アワレー』
面白かったら☆評価、「トニコちゃん哀れ……」と思ったらブックマーク、
「そろそろトニコがモノノの家に火をつけそう」と思ったら両方をよろしくお願いいたします。
作者の励みとトニコちゃんがせめても観光を楽しむための旅費になります。
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