メラビアンナイト その1
「おらっ! 大人しくしろっ!」
「私のせいじゃないじゃん!」
「うるさいっ! おまえが知らせなければ、私は幸せでいられるんだっ!」
「ダメな大人!」
「くらえ
「むぐぐーっ‼︎」
もうこれ以上厄介な知らせを持ち込まれないよう、トニコをカウンターの内側へ拉致監禁していると、郵便屋さんがすごい勢いで隣を駆け抜けていきました。
珍しい。いつもはポストへ手紙を突っ込んで、それを私やトニコが回収。なので基本、ギルド内には入ってこない人物です。ちなみにやや高身長、やや細め、ややイケメンの若い男。きゃっ♡
そんな彼が一目散に階段を駆け上がり、オーナー室へ飛び込んでいきます。
「いったいどうしたんだろう?」
「むぐぐむふんふ」
「なんて?」
「むぐーっ‼︎」
急にモゴモゴ言って、変なトニコ。あ、私のせいか。
「おらっ! 反省しろっ!」
「やめてっ! 乱暴しないでっ!」
「おまえの罪を数えろ!」
「私は常に、道端の片足がないバッタにも哀れみを欠かさない善良な市民でした! 神に誓って罪など……!」
「図に乗るんじゃあない! キサマのような蜘蛛の巣にかかった蝶を助けるために、知らず足元の蟻を踏み潰す女が‼︎ くらえ猿轡!」
「辱められるっ! あーれーっ‼︎」
あれから数十分くらい経ちましたでしょうか。私が意味分からない会話とともにトニコから逆襲されていると、
「いやー、まいったねぇ。困った困った」
二階からオーナーが降りてきました。後頭部をボリボリ掻いて、軽薄なニヤつき顔。相変わらず困ってなさそうな雰囲気ですが、これで案外本当に困ってたりするのがこの人です。
「どうしたんですか?」
私をふん縛る片手間で声をかけてみるトニコ。案外コイツ、怪力なんですよね。スキルでもなんでもなく、天然モノで。
それはそうと、トニコクエスチョンに対するオーナーの返事は、
「それは僕の方が聞きたいかな……」
確かに、職員二人がカウンター内で踏みつ縛られつしてたら、誰だってそう言いたくなりますよね。
彼の取りなしで助けてもらい解放された私は、ようやく落ち着いて話を聞くことができました。
「で、なにがあったんです?」
「リングラード王国に派遣した、バリバハ一行のこと知ってるよね?」
聞いてから思い出しました。なぜ自分がトニコを拉致監禁しようとしていたのかを。オーナーの部屋に郵便屋さんが駆け込んでいったのを。
今ごろ気づきました。『あれ? これって聞かない方がいいんじゃね?』と。
私がこっそり半歩ほど後ずさると、
「そりゃ知ってるに決まってますよ。全部モノノちゃんが決めて派遣してるんだもん」
「小娘ッ!」
トニコのやつ、余計なことを口に出しやがりました。言わなきゃバレないのに!(バレます)
かくなるうえはオーナーも拉致監禁……は無理です。普通に無理。体格差で無理。
「で、バリバハさんがどうかしたんですか?」
「それがねぇ」
勝手に話を進める二人。いや、私に振られても困りますけども。なので存分に進めておいてもらいましょう。
というわけで私は私で、一人静かに情報を整理。
バリバハさんが派遣されたリングラード王国のクエストというのは、連続殺人事件捜査への協力でした。首都リンゴーンで同一犯のものと見られる通り魔事件が起きているのですが、現地警察がこれといった成果をあげられないのです。
なので当ギルドに優秀な人材を派遣してほしい、と。
そこで私が選んだ人材こそが、バリバハさんでした。
事件の捜査に役立つスキル、というものもたくさんありますが、何より大事なのは『人海戦術』です。聞き込みから犯人包囲まで、しかも今回のケースなんかは現行犯を抑えるのが一番手っ取り早い。そんなわけで、あちこちに人員を配置できるのがベストなわけです。
それに最適なのがバリバハさんだったというわけ。私としてはこのうえないベストマネジメントだったのですが、はてさて、なにがどうなってしまったのやら?
「彼らが道すがらのフランジュール王国に差し掛かった時のことなんだけどね?」
オーナーの眉が八の字になります。いつものことか。
「そこで一悶着あってさ。ちょっと向こうの法廷に出向かなくちゃいけないかもしれない」
「はぁ⁉︎」
オーナーによると、どうやらことの顛末はこういうことだったそうなのです……。
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