スキル:品性 その3
「何すんだよぅ!」
そんなに痛くはなかったろうに、条件反射的に頭を抑えながら抗議するラクシャさん。それに対してユージィンさんは、黙って落雷の着弾地点を指差しました。そこには、
「んあっ?」
「おいおい、ヤベぇよヤベぇよ……」
「うわぁ、えらいこっちゃ……」
思わずカトリンさんが方言になるほど燃え盛る草原が! 夕日の沈む水平線のように真っ赤、
ここでユージィンさんが声を張り上げます。
「なんのために川で迎撃したと思ってる! 落雷で火災を引き起こさないためだ!」
「あー、あー……」
衝撃からか、なんだか間抜けな相槌を打つラクシャさん。
「消火活動しねぇと! 俺、ポーアンの人呼んでくる!」
「国境警備隊の中に、お医者さまはいらっしゃいませんか⁉︎」
「医者はいらねぇ……いる? いらないでほしい‼︎」
キョウヘイさんと取り乱したままのカトリンさんは、迅速に行動します。あるいはユージィンさんのプレッシャーから逃げるためでしょうか。
一対一にされてしまった放火犯は、誤魔化すようにテヘペロしました。似合わねぇ。
「……範囲広すぎちゃったぜ☆」
「ちゃったぜじゃない! 自分が何を仕出かしたか分かってるのか⁉︎ 自分で解決できることならともかく、大火災になど発展したら!」
まずもって言い逃れしようとしているラクシャさん、お説教が
「んなこと言ったってよぉ。川の範囲で収まるチンケな落雷で、連中引き下がるかってんだよ」
「じゅうぶんだ! むしろ過剰にやると、復讐の気運を産む!」
「そもそもさ。雷なんか落として火災は起こさないなんて、都合よすぎるんだよ。オーバーパワーなんだよ! 脅しにゃ向いてねぇ! こんなん人選ミスだろ!」
なんですって⁉︎
「バカ言え! 『威力以上に大きな音が恐怖心を煽る』『防ぎようがないことによるプレッシャー』! むしろ少ないパワーで最も効果効率が優れているから選ばれたんだろうが! オーバーなのはおまえの匙加減だ!」
いいぞ! もっと言ってやれ!
と、私の魂の叫びは置いといて、この方面、つまり理屈では敵わないと理解したラクシャさん。アプローチを変えてきたようです。
「だ、だったら先に言えよな!」
「は?」
「終わってからギャーギャー言うなよ! 『観察』で予知できるんなら、『今やろうとしてるのだと強すぎるから、もう少し弱めろ』とか言えただろ!」
しかしユージィンさんも負けていません。
「おまえは俺の後ろに立ってただろうが! 視界に入れてないヤツを『観察』できるわけあるか!」
ここまで言い返されると、あとはもう無意味なヒートアップしか残っていません。
「ホントかぁ? ホントにそうかぁ? ホントはそのスキル大したことないんじゃねぇのかぁ? 未来予知とか吹かしてんじゃねぇのかぁ?」
「なんだと⁉︎」
この一言にはユージィンさんも黙ってられない!
「そんなわけないだろう!」
「じゃあアタシのこと見ろ! そんで未来を予測してみろ! オラ!」
ついに挑発は低レベルを極め、そして、
売り言葉に買い言葉、問題の一言が発されてしまうのです……。
「……明日から生理が始まr」
「ぶっ殺す!」
「カトリンさん、落ち着いた?」
「はい。取り乱して申し訳ありません」
「いいっていいって」
「では早く消火活動に向かイエエェェェェエエエ⁉︎」
「どうしたウオオォォォ⁉︎」
「一体どうなさったのですか、冒険者どの⁉︎」
ポーアンの兵士さんまで焦りだしたので、キョウヘイさんは一点を指差しながら声を絞り出したそうです。
「なんか、俺たちがいた高台まで燃えてる……」
「それで、雷直撃で落とされたユージィンさんはともかく、あなたまで火災に巻き込まれて火傷した、と」
「そういうこった! まったくヒデェ目に遭った! カトリンも『反省しなさい』って治してくれねぇし!」
ヒデェのはあなたの頭では?
しかし確かに、ユージィンさんも他に予知することがあったのでは……、と思わなくもありませんが。喧嘩腰だからわざわざ嫌がるチョイスをしたんでしょうか?
それにしてもねぇ……。品性がねぇ……。
これが王道(?)の、鈍感デリカシーない系主人公か……。
ちなみにポーアン国王からの感謝状には、無駄に火災を起こしたことに対するお小言が追伸されていました。感謝状なのにね。
『本日の申し送り:強くたって女の子。 モノノ・アワレー』
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