第二次元種接近遭遇 その2
そんなわけで、私はオーナーの望みどおり、クロードさんをさまざまなクエストへ派遣しました。
確かに雑な強さはあるので、雑に暴力で解決するクエストには安心して送り出せます。しかも
「お疲れじゃありませんか? オーナーはああ言ってましたけど、やっぱりお仕事減らしましょうか?」
『大丈夫です。宿屋でセーブすれば、すぐに全回復するので!(ポポポポ)』
「
よく分からないけど疲れ知らず。スキルが多彩なのもあって、余ったクエストをひょいひょい処理してくれます。飲み会にいたら助かるタイプ。
とは言え一人にクエストを集中しすぎても他の冒険者さまが生活できないので、適度に休ませたり、パーティーで挑む案件を中心に(オーナーも『ギルドに馴染めるよう』って言ってましたし)派遣したりしたのですが……。
カウンターでいちごミルクなる異世界の神ドリンクを堪能していると、
「モノノちゃん。あいつ、どうにかならんか?」
クエストから帰ってきた、人呼んで『射手座』の弓使いロビフッドさんが低い声で溢しました。チラッと僅かに顎で指す先には、クロードさんがポツンと立っています。
「どうかしましたか?」
「私たち、予定より帰りが遅かったでしょ?」
横から割り込んできたのは、同じクエストに派遣された『蛇聖女』ゴルゴナさん。
「あいつ、宿じゃないと寝れないのよ。野宿だと絶対に寝ないの。不寝番にはいいっちゃいいけど、ゴソゴソ動かれるとこっちも寝れないし」
「あ、セーブ……」
「それで一々宿を探さなきゃいけなくて、思うように進めなかったってわけ」
「なるほど……」
「あー、悪い人、人? じゃないんだけど、いろいろ困るよね」
バーカウンターから声をかけてくるのは『踊り子』マジェンノさん(みんな知らないけど実は男性)。
「この前のクエストで食料の買い出し頼んだらさ、薬草と蜂蜜ばっかり買ってきたんだよ。『これしか口にしたことがない。食べ物と言えばこれだ』って。教会でもそんな潔斎しないよ」
「あと見た目が変わってるから、クエスト先の人が警戒しまくるんだよなぁ……。それで仕事が円滑に進まないこともあるし。俺も追放されたことがあるから、ああいう雰囲気は見ていて可哀想に思う」
マジェンノさんの隣、炭鉱夫ギュンムさんも頷きます。
すると他の冒険者の皆さんも、続々集まってきます。
「言ったらすぐ直ったけど、ノックもせずに人の家のドア開ける、はなぁ」
「しかもチェスト漁る」
「ポケットやポーチの容量が無尽蔵なのはいいけど、なんか武器とか細かいアイテム×99とかごちゃごちゃ入ってて整理されてないから、大事な荷物に限って任せられないんよ」
「で、装備とかいっぱい持ってる割にクエスト先で『村の聖域に入る時の正装に着替える』とかなると、『アクセサリが多すぎる。これ以上アイテムは装備できない』とか言い出しちゃうんだねぇ」
「急に爆裂魔法とか使い出してさ。危うく巻き込まれるところだったわ。なんか『味方に当たり判定があるなんて』とかよく分かんないこと言ってたけど、とにかく怖いんだよね」
「なにより、土壇場での意思疎通がムズすぎるよ」
二階から降りてきたのは、転生者『黒髪』のタツヤさん。まぁ転生者さんは大体黒髪ですが。
「戦闘中で一々味方の方を見れない時に、『ポポポポ』じゃ何言ってるのか分からない。別に『危ない!』みたいなのは伝わらなくても対処できるからいいけど、気が抜けるんだよなぁ」
「そうそう」
「抜ける抜ける」
「モノノちゃん抜ける」
「『ポポポポ』がね」
最後は皆さん、声を揃えてため息とともに一言。
「悪い人? じゃないんだけどねぇ……」
皆さんおっしゃることはもっともです。
だからこそ私は、何も言わずに佇んでいるクロードさんが、切なかった。
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