特に泣いてないし斬る その3

「必死に追いかけたのですが、思った以上に逃げ足が速く……」

「えぇ……」

「おいおいおい」


なんと! ここにきて正規軍やらかし! このドン亀ェ‼︎


「つきましては、その……、追討軍に加わって、連中の捜索に協力していただけませんか?」

「恥とかないんか?」

「……」

「……」


まぁ今更プライドの話をしても連中は捕まりません。報酬を上乗せしてもらえるということで、一行は『行きがけの駄賃』をすることにしたようです。






「いたぞ」

「そんな遠くまで来てないじゃないか。正規軍はこの程度も追いつけないのか?」


軍隊とは移動速度が段違いな当ギルドの冒険者たち。その分捜索の効率もいいので、日の高いうちに隣の都市との境界付近で連中を捕捉したそうです。


「街同士の境い目で軍隊をドヤドヤ動かすのも気が引けたんだろう。向こうも軍があるのに、余計で不穏な刺激を与えることになる。そういうことにしておけ」

「それはいいが、どうするジァンソン。そのげん、結局正規軍じゃ連中をどうにもできないことになるぞ」

「もう俺たちでやっちまおうや。連中呼んだって到着いつになるか分かんねぇし、結局境い目割ったらパーなんだろ?」


フラストレーションの噴出を表すように、キュジュさんの肩に力が入ります。そこへジァンソンさんは手を置きつつも、宥めず大きく頷きました。


「おまえの言うとおりだ。なにより、また『結局逃しました』じゃからな」

「連中に花を持たせる、というのは?」

「向こうに受け取る腕もないのではな」

「……やるか」


コホギンさんのため息が合図、一行は山賊をメタメタにして、牢屋へぶち込んでしまいましたとさ。


え? 正規軍のメンツを丸潰しにしたから国際問題になったんだな、って?

それがねぇ、違うんですねぇ。


それで済んだらどれだけよかったですかねぇ……。






「おい。軍が来たぞ」

「よし、帰るか」


山賊たちを今度こそクエスト完了した一行。結局境い目を割ったので、そちらの都市の軍に連絡しました。今そのお迎えが到着したところです。


「お疲れさまです」

「お疲れさま。そこに転がってるのが山賊連中だ。ノビてはいるが殺してはいない。一応丁寧に扱ってくれ」

「ま、どうせ極刑だろうがね。へっへ」


笑うキュジュさんの脇腹にコホギンの肘。軍の隊長は苦笑いしながら頭を下げます。


「と、とにかく、確かに連中は引き取りました。誠にありがとうございました」

「あぁ」

「……ん?」

「何か?」


これで事務的あいさつも終わり、かと思ったタイミングで、隊長が兜のひさしを上げました。そして顔を覗き込み……



「おまえ、ジァンソンか……?」



瞬間、ジァンソンさんから感情の読めないオーラが。


「そういう貴様、その声、クァンクーか?」

「や、やはりジァンソンか……!」


同時にクァンクー隊長の空気も強張ります。いろいろ察して口を引き結ぶコホギンさんと、むしろ一歩前に出るキュジュさん。


「なんでぇ。おまえら知り合いか?」

「キュジュ」


ジァンソンさんは振り返らずに呟きます。誰かに聞かせるというよりは、自身で記憶を掘り起こすように。噛み締めるように。


「俺があのギルドに流れ着いたのは、故郷を追放されたからなのは知っているな?」

「おう」



「カタック守備隊隊長だった俺を、その座ほしさに太守へ讒言ざんげん更迭こうてつさせ、街にも残れないよう民衆へ嘘の噂を流して追放させたのが、このクァンクーだ」



皆さま覚えてらっしゃいますか? そう、

『ジァンソンさんはチャイジーミ共和国から来た追放者さんです。サイネーの隣、カタック出身。』


『サイネーの隣、カタック出身』



『サイネーの隣』



だから地の利があるんですもん。そして、一行は山賊を追いかけているうちに隣の都市との境界を割っていましたよね……?

つまり……、


「なぁ、コホギン、キュジュ」


私にもオーラの感情が読めるようになってきたところで(現場にはいませんでしたけど)、コホギンさんが手を挙げ、ジァンソンさんを制します。


「待て。みなまで言うな」

「……」


ピクッと止まる肩へ、キュジュさんが優しく手を置きます。


「おっと、勘違いするなよ? 止めようってんじゃねぇ。むしろその逆」


コホギンさんがもう片方の肩へ手を。


「俺たちも同じ、追放された過去を持つ者だ。気持ちは分かる。痛いほど分かる」

「だから……」


まさかまさかの、お二人もジァンソンさんと同じオーラ。


「ひっ⁉︎」


あまりの気迫に、クァンクー隊長は縮み上がり、彼の鎧がガチャリと悲鳴を上げます。

三人はその心臓を鷲づかみにするかのように視線を向けると、



「「「『ざまぁ』の時間だコラーーーーーッ!!!!!」」」






「こうしてカタックは壊滅。街一つ滅ぼしたわけだから、立派な戦争行為としてチャイジーミ側から厳重な抗議が来てるんだよね。報復と戦争の準備もしているらしい」

「ひひぃぃぃぃぃ‼︎」

「いひぃぃぃぃぃ‼︎」


あくまでニヤニヤしているオーナー。抱き合って縮み上がる私とトニコ。いや、アンタは内容知ってるんと違うんかい。

そんな私たちを見つめるオーナー、やはり目は笑ってない。


「そういうわけで、僕は敵意渦巻くチャイジーミへお話しに行かなきゃならないんだけど」

「は、はい……」

「使者がってのも誠意が見えないからさ」

「へへ、まさか……」



「二人にもついてきてもらおうかな」

「「いやああぁぁぁぁぁ‼︎」」






『本日の申し送り:その昔、地の利を求めすぎて馬謖ばしょくなる武将がおってな……   モノノ・アワレー』






 はぁい! なんでしょう観測者さん。苦豆汁コーヒーのお代わりですか?


えっ? こんなミスばかりして、受付クビになったりしないのか、って? 


大丈夫!



スキル『完全記憶メモリアテクニカ』で全てのクエストと冒険者のスキルを記憶し、瞬時にベストな発注をできるのは私だけだから!



え? ベストな発注できてないだろ、って?


HAHAHA!


ちょっと、家、帰って、いいですか……






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