千年ぶりに現れたとかいう安倍晴明レベルの陰陽師が新婚なのに全然手を出してこない!~新婚夫婦の元に血縁関係アリとしか思えない赤子が捨てられていたんだが?~
宇部 松清
第1話 土御門の本家にて
「このポスターは何?」
それはそれは
「そ、それは、その、じゃなぁ」
「『令和最強の陰陽師、上半期帰省スケジュール』って書いてんだけど」
「田所様、僕が聞いていた予定よりも一週間ほど長いのですが、僕以外にもどなたかおられるのですか?」
何にもわかってない『令和最強の陰陽師』は一旦無視である。お前、『令和最強』とかいうやつが他にもゴロゴロいると思ってんのか。きょとんとしてんじゃねぇぞ二十八歳児!
「毎回毎回どういうわけだか帰省が伸びるって聞いてたし、前回もそうだったし、おかしいとは思ってたのよ。ここぞとばかりにアピって客集めてんじゃねぇか! 爺!」
「ひいいいい! ワシ、か弱い老人じゃぞ? 後期高齢者じゃぞ?」
「そんな肌艶良い爺がか弱いわけあるかぁっ! さっきおはぎ三つも四つも食ってただろうが!」
「田所様は昔からおはぎが大の好物なんですよ。おパの手作りなんですが、お気に召したようで何よりです」
「慶次郎さんはお口にチャック!」
あんたがしゃべると空気がゆるゆるになるから!
「まぁまぁはっちゃん、落ち着いて落ち着いて。お茶飲んで、お茶」
肩で息をする私の隣にちゃっかりと座って、お茶を勧めて来たのは神主装束でも巫女装束でもなく、普通の――普通のってのがよくわからないけど――着物を着た歓太郎さんだ。何でも、本家では和装でいなければならないらしく、慶次郎さんもである。当然のように私も着せられた。ぎゅうぎゅうに締め付けられている胸と腹が苦しい。
和服効果でイケメン度がマシマシの我が亭主(この響きも慣れないけど)は、お口にチャックをしっかりと守って、固く握った拳を膝の上に置き、口を真一文字に結んでいる。
「か、歓太郎ぉぉぉ……!」
天の助けとでも思ったのだろう、田所の爺は縋るような視線を歓太郎さんに向け、彼を味方に引き込もうと、これ、こっちゃ来い、と手招いている。
クソ、裏切んのかわいせつ神主め。まぁ歓太郎さんがどっち側につこうが関係ないっていうか、むしろ爺の代わりに殴れるから好都合ではあるけど、弁が立つから厄介だ。
そう思っていると。
「はっちゃんね、
小脇に抱えていたタブレットをサッと座卓に置き、該当ページをあたしに見せる。そこには、やはりポスターと同じ文面があった。しかもこちらにはご丁寧に予約フォームまであると来たもんだ。しかも何、先着十名様にはサイン入りお守りって。誰のサインだよ、陰陽師様のか!?
「爺、これは何だコラぁぁぁぁ!」
「ひいいいいい! かん、歓太郎、裏切ったなぁぁぁ!」
「え〜? 裏切るも何も、俺、一度も田所様の側についたことないと思いますけどぉ〜? 俺は可愛い弟の味方だし〜、可愛い弟の可愛い嫁さんの味方だも〜ん」
しれっと答えるわいせつ神主である。良かった、こいつは味方であるらしい。敵に回すと厄介だし、味方にいても邪魔だけど、いざという時には一応使えるからな。
と、視界の隅でお口チャックをしっかり守っている慶次郎さんが、「あ」みたいな顔をして袂からごそごそと何やら取り出した。
そして、お口を閉じたまま、むごむごと何かを伝えつつ、小袋に入ったものを座卓に置く。それに気づいた爺が「お、おお」とそれに手を伸ばすより先にサッと掠め取った。
これまたきれいな字で『土御門慶次郎』と書かれたお守り(十個)である。いやこれサインっていうのかな。なんか慶次郎さんの持ち物みたいだけど。幼稚園児かよ。あっ、二十八歳児か。
じゃなくて。
「爺、お前ぇぇぇぇぇぇ! 何ちゃっかり依頼してんだこの野郎ぉぉぉぉぉ!」
「ひいいいいいい!」
結局、告知してしまったものは仕方ないということで、その『聞いていた予定よりも一週間ほど長い』期間、この土御門の本家に滞在することになった。
『あの、この世のコミュ障をかき集めて煮詰めたような陰陽師様が奥方様を連れてくる』
という大変センセーショナルなニュースは本家のみならず親戚中に知れ渡っていた。もちろんあたし達の結婚式に参列した人もいるにはいるんだけど、ほら、式の時はさすがにあたしもだいぶ猫被ってたし。
なのでここで働く人の大半にとっては、参列した人から得られた『なんかまぁ明るい感じの若い嫁さんだったよ』という情報しかなかったところへ、どうやら
その結果、
『なんかまぁ明るい感じの若い嫁さん』
というあたしの評価は瞬く間に『あの田所翁をねじ伏せた鬼嫁』に代わり、とんでもないコミュ障でありながらも、一応この分野においては日本一であったはずの
ねぇ、あたしほんとに来て良かったのかな?
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