第2話 最初の出会い

 ______四年前、大学入学の春。


 地元の中学を出て地元の高校に通い、やりたい事もないままにとりあえず地元の大学へ進む。この先もきっとそれなりの会社に入って、何の目標もないままに平凡な毎日を繰り返すんだろうな。


 小さい講義室でシラバスの説明をラジオ代わりに、私は外を眺める。初めは新しい環境に胸を膨らませていたのに、今となっては変化のない退屈な時間をただ消費していくだけ。


 初めての一人暮らしに新しい友達、きっと今までとは違った輝きを放つ毎日を過ごすんだろうな……!


 そう意気込んで大学に入学した。そう、初めのうちは。結局、環境が変わろうと地元は地元。活気もなく、前で話している教授ですら淡々と作業をこなすだけだった。周りは既にSNSで繋がったのか複数の集まりを作っている。そんな中で私は一人。


「はぁ、つまらないなぁ……」


 そう呟くと、私は机に突っ伏せて目を閉じた。私がどんなに真剣に聞いたって、どんなに退屈に聞いたって流れてくる音は変わらない。


「……以上がこれからの予定で……必修は……と国語と……」


 だって教授の声が小さくて眠くなるんだもん。口を閉じて喋っているのか、ところどころ音がこもりとても聞きづらい。もう少し聞いてあげてもよかったけど、次第に聞こえてくる声が遠のいていく。窓から入る風が心地いい。これが夢にまで見た大学生活なのかなと思いながらも、私は近づいてくる眠気に身を委ねることにした──



「……次は明日か……の……一限は……」



「…………担当は……い……です……」



「…………ので…………だか…………」



「………………………………」



「………………」





 ──あの……大丈夫ですか? もうガイダンス終わっちゃいましたけど……


 体を揺すられ、しぶしぶ顔を上げる。あれからしっかりと眠りについてしまったみたいだ。気がつくとつまらないラジオの声も聞こえなくなっていた。


「んー、みんなは?」


 目を擦りながら体を起こすと、そこにはほんのりと明るい髪をした女の人が立っていた。


「あ、えっと、他の人たちはもうお昼に行っちゃいましたけど……ずっと寝てたんですか?」


 彼女は眉をひそめて、やれやれという表情をしながら答えた。きっと同級生だろう。


「じゃあ私もう行きますね。」


そう言うとリュックを背負って足早に部屋を出ていった。私だってこんなに眠るつもりじゃなかった……と思う。あの教授がもう少し声が大きければ眠らなかったかも。たぶん。あ。


「しまった友達を作る機会を逃した……名前だけでも聞いておけばよかったな」


 私は机に散らばるプリントをまとめながら呟く。もう少し顔を見ておけばよかった。それに、明るい髪のせいか、彼女の顔を思い浮かべてもぼんやりとしか浮かんでこなかった。


「髪の毛綺麗だったな。私も髪を染めて来ればよかったかも」


 周りを見ても既に講義室には一人も残っていなかった。窓から春の風が入り込み、さっきまで人が詰まっていた部屋とは思えない程に爽やかな空気が流れている。


 春という出会いの季節。大学を入学して初めての校内。新しい生活環境。このイベントにことごとく失敗した私は未だに友達がいない。


 ああ、これではこの先が思いやられる。

私はとりあえずやれやれと眉をひそめ、さっきの女の人の真似をしてみた。やっぱりだめだ、虚しい。


 もしまた出会えたら、ちゃんと名前を聞いておかないとな。あわよくば友達になれたら──

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