ヲ髷

満梛 平太老

大陸間弾道誘導弾『ヲ髷』一号の場合

 俺は働かない。

 俺の女房は、髪結なんでね。

 しかもね、ハウスハズバンドでもない。

 ヒモだね、つまるところは。


 俺はね、なんの気無しに、フラフラと出掛けては、二三日家を空けたかと思うと、一月ほど、一歩も家から出ない時もある。


 でも、女房はそれについて何も聞いてこない。できた女房どころの話しではない、だってよ、毎日ご飯も作ってくれるし、どおうせ負ける博打の種銭にしたって、くぁいい笑顔でくれるのよ。

 でもよでもよ、それは、きっと俺が朝も夜も関係なく押し寄せる女房のパッショオン、とやらに、流々剛々に応えることが出来る唯一無二の男だからだろう…。


 「ねえ、お前さん。ちょいとこっち来てよ。ほら、この頸の辺りにね、できものが出来てるの分かるだろ。これの隣をさ、こうして指で触ってあげるとね、イヤに心地がイイんだけどさ、頸の辺りにさあ、なにかおかしなもんでもあるのかねえ?」


 そう艶々言われて、俺は寝間からゆるうり起き上がり、女房の頸をぬらりと見てみるのだけどね、特に変わったところなどはなんにヰも見当たらない。


 これだ!!!まただ、まんまと罠に掛かったのだ。俺は女房の仕込んだ簡単な罠に自ら飛び込んで、甘美な毒牙に冒されてしまった。


 あああ、なんて気持ちがよいのだろう。

 現実とも夢とも分からぬ世界が目の前に広がっている。ケシでも麻でもキノコでも粉でも粒でも液体でも…この様な世界は体験出来まい。これだからヤメラレンのだ。

 

 「お前さん。いいかい、そのまま頭動かすんじゃないよ。今日は今まで一番大きなのを拵えてあげるからね。イイ子にしてたご褒美だよ。でもね、これで最後だと思うと哀しくなるねぇ…。ぐすん、確かなる正義は気高く翔びたち、志し強くむかわんや。お前さん日本男児なんだ!頑張るんだよ」


 ぶふぁ〜、なんのこっちゃよう分からない。俺はもう女房にメロメ〜ロなのだ。とろけたバターと乳酸菌で、胃腸がおかしくなりそうだった平行宇宙の俺から、この世界の俺に無事の便りが届いたと、そう信じている。


 いよいよだ、始まる…

 何度も何度もタイムリープしたが、今日で全てが終わるらしい。

 幾度となく重ねた毒遊びと、チョメチョメがなくなるのは、少し哀しいよ女房殿。

 然し、御国の為ならば、致し方なし。


 肚が決まり、背中の毛が沢山生えてきた。気付けば、その毛が頭の方へどんどんと伸びて、この国随一の髷と一体となった。


 おお、創造主よ!今まさに完成したのですね。古の叡智から生まれし性兵器『ヲ髷』一号が!!!


 女房の造ったこの髷が、神智のわざ借り性兵器。山越え海越え空越えて、やってやろうぞ世直しを、どこぞの国とは解らぬが頭の髷の赴くままに、発射いたそう大陸間弾道誘導弾『ヲ髷』一号!!!

 



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ヲ髷 満梛 平太老 @churyuho

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ