第15話 目指す場所


 お父様は宰相の地位にいるので領地に帰ってくるのは二か月に一度くらい、お母様はそのサポートがあるので一か月に一度くらい、お兄様は領主としての勉強をしながら王都で暮らしている。

 私の年齢の貴族は、王都にいて王立学院に入学するための予備教育として予備校みたいなところに通ったり、家庭教師をつけたりするそうだ。


「必要ないですね。実学に関しては必要ですが、それでも王立学院に十分合格できるだけのレベルはお持ちです」


 とは、例の先生の一言でした。そういうわけで、家庭教師をつけての実学の勉強が中心だという判断された私は、お父様の考えもあって領地での勉強の方が良いと判断されている。


 だから、7歳にして魔物討伐ができるようにと魔の森の入り口でキャンプなんか課題として出されている。

 なんでも、王立学院に行くと、最終的にサバイバル実習があって、自分で獲物をしとめて自分で調理するんだそうな。

「まぁ、宿泊はテントの中だし、学校の校庭だし、調理場も学校内にあるから心配はいらんぞ」

「調理までさせるんですか?」

「ヒイイ、激マズそう」

 一緒についてきた冒険者たちが茶化して叫び声をあげた。

「まぁ、真似事みたいなキャンプだが、経験しているかしていないかでかなり差が出る」

 ぐいっと目の前に突き付けられたのは、たった今仕留められた魔物兎である。肉は美味しいが、処理を間違うとものすごく生臭くなる食材だ。

 他の冒険者たちもこの川辺で獲物の処理をしているので、エレン隊長に教わったようにまず血抜きをするために水につける。

 森の入り口の川辺には、指定されたエリアで処理するようにギルドから通達があり、キャンプ地としてのイロイロも整備されている。

「え?えええ?」

「おまえら、負けてるぞ」

 新人キャンプ講座に参加している初心者冒険者が、驚きながら私の方を見ている。

「何か間違えたかな?」

「いや」

 ギルドマスターは別の冒険者を助手にして、もっと大きな獲物のさばき方を実習している。

 私はまだ体がちっこいですからね、ここで獲物を捌いて調理するまでしかお父様は許可してくれていない。狩りなんてもってのほか。しかも、魔の森に行くときにはエレン隊長かギルドマスターのラインハルトさん同伴じゃないと行ってはいけないと約束されている。

 でも、お肉のさばき方はまぁ、言わずもがな。転生前は主婦だったから、ある程度の包丁さばきはできるし、何度か教えてもらえれば鳥の一羽や二羽はなんとかなった。今捌いているのは兎だけど、要は同じだ。

 本当にいただきます、の世界だ。

 今日のこの獲物は、ここに泊まり込み指導するギルドマスターやらギルドの皆さんの夕食になる。そのお手伝いだ。

「やってるな、お嬢」

 今日の森の見回り当番はエレン隊長の班で、帰りは隊長と帰る予定だから迎えに来てくれたのだ。

「ちょっと早いが、俺の仕事が詰まっててな。マスター、連れて帰って良いか?」

「良いが、まだ解体途中だろう?」

「もう終わるよ」

 ちゃっちゃと片づけて周辺を点検する。

「今日は何かの採集に来たんだろう? 成果はあったのか?」

「そうなのよ、なかなか面白かったわよ。リンジーに頼んで先に持って帰ってもらったんだけど、リトリアを集めてもらったの」

「雑草じゃん」

「役に立つのよ、それが」

「そこら中に生えているのに、わざわざ森に来る必要があったのか?」

「だからなのよ。町に生えてるものと、魔の森に生えているものと、全く成分が変わらないということが必要なの」

「何か良くわからんが」

「怪我したらリトリアのしぼり汁を傷口に塗るでしょ?」

「ああ、ちょっとした傷はそれで治るよな。そもそも傷薬の主成分だし」

「その研究なの。けがや病気に役立てないかなって。身近なものから作れば、皆が手にしやすいし、皆が便利でしょ?」

 正しくは殺菌成分と消臭成分だけれども。

「お嬢は全くぶれないな」

「え?」

「アダムはお嬢がいろいろなことに手を出すことを心配していたが、視点が領民にしかない」

「貧富の差があるからね、少しでもみんなが楽しく楽に生活してほしいから」

 目指すはそこなのだ。近代社会まで行かないけれど、ちょっとでも、楽に楽しく暮らせる世の中にしてみたい。転生者としての欲だね。



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