第3話 私と貴女③

「そっか、そうだよね。ごめんね変なこと言って」

そう言いながら部屋を出て行こうとする彼女を引き止めようと声をかけましたが、その声は届かず出て行ってしまいました。

一人残された私はどうしたものかと考え込んでいましたが、答えは出ないまま時間だけが過ぎていきました。

結局その日は何もせずに過ごしました。

数日後の夜、私は愛梨の家を訪ねることにしました。

チャイムを鳴らすとすぐにドアが開き、彼女が出てきてくれました。

「いらっしゃい、上がっていいよ」

そう言って招き入れてくれたのでお言葉に甘えてお邪魔することにしました。

部屋の中に入るといい匂いが漂ってきて食欲を刺激してきます。

テーブルにはすでに料理が並べられていて、

「さあ座って食べようか」

と言われ席に着くといただきますをして食べ始めました。

食事中は特に会話もなく黙々と食べていただけですが、気まずい空気ではなくむしろ心地よい雰囲気に包まれている気がしました。

そんなことを考えているうちに完食してしましました。

食器を片付けた後は再びソファーに座り一息ついていると愛梨が話しかけてきました。

「今日はどうしたの?」

いきなり核心を突かれたので動揺してしまい言葉が詰まってしまいましたが、なんとか絞り出すようにして答えます。

「あのですね……この前のことなんですけど……」

そこまで言ったところで遮られてしまいました。

「あ、やっぱり気にしてたんだね」

と言って微笑む彼女を見ていると恥ずかしくなって俯いてしまいます。

「はい……」

と答えると頭を撫でられました。

「大丈夫だよ、怒ってないから」

優しい声音に安堵していると、彼女は続けてこう言いました。

「でもね、一つだけ約束してほしいことがあるの」

なんだろうと思って顔を上げると、真剣な眼差しで見つめられていたのでドキッとしてしまいました。

「な、なんですか……?」

恐る恐る聞くと、彼女は微笑んで答えてくれました。

「他の人とはこういうことしちゃダメだよ?」

そう言って人差し指で首筋を撫でてくるので背筋がゾクッとしました。

「わ、わかってますよそんなこと!」

恥ずかしさのあまり大声で叫んでしまったことでさらに恥ずかしくなり俯いてしまいました。

そんな私を愛梨は優しく抱きしめてくれたのです。

「ふふ、冗談だよ♡これからも仲良くしようね」

ああもうこの人は本当にずるい人だなと思いましたが、同時にそんな彼女のことが好きなんだと改めて実感したのでした。

翌日から私と愛梨の関係はより親密なものになっていった気がします。

今まで以上にスキンシップが多くなりましたし、毎日のようにお互いの家に行くようになりました。

もう友達というよりも恋人と言った方が近いかもしれません。

いや実際に恋人同士と言ってもいいと思います!

あの一件以来私は彼女に依存してしまっていますし、彼女も私のことを大切にしてくれるようになったからです。

それに何より嬉しいのは彼女とお揃いのものが増えたことです!

「ねえ、これ可愛いと思わない?」

そう言われて見せられたのはペアリングのネックレスでした。

「わぁ、すごく綺麗ですね」

思わず見惚れていると、愛梨が微笑みながら尋ねてきました。

「よかったら一緒につけない?」

断る理由なんてありません。

「もちろんです!」

即答すると、さっそくつけることになりました。

愛梨の首に手を回し、金具を止めると胸元に光る指輪が見えました。

それを見て嬉しくなっていると、不意に抱きしめられました。

「えへへ、これでずっと一緒だね」

その言葉を聞いた瞬間、胸が高鳴るのを感じました。

私も愛梨の背中に手を回して抱きしめ返すと、

「うん、ずっと一緒にいようね」

と答えた後でキスをしました。

それからというもの、私たちは常に一緒にいるようになり、学校でもそれ以外でも行動を共にすることが多くなったのです。

そんなある日のこと、私は愛梨と一緒に帰っていた時にふと思い立ち彼女に尋ねました。

「ねぇ、今度の休み空いてるかな?」

そう尋ねると、彼女は少し考えてから答えました。

「うーん、多分大丈夫だと思うけどどうして?」

その問いに対して私は正直に答えることにしました。

「えっと……デートしたいなって思っちゃって……」

私が照れながら言うと、

「わかった、じゃあどこか行きたいところある?」

と聞いてきたので、私は迷わず答えました。

「遊園地に行きたいです!」

それを聞いた途端、彼女の顔がパァッと明るくなるのを見て、私は心の中でガッツポーズを決めました。

(よしっ!)

そして当日を迎えました。

待ち合わせ場所に到着するとすでに愛梨が来ていました。

「お待たせ〜」

と言いながら駆け寄っていくと、笑顔で迎えてくれました。

「ううん、全然待ってないよ」

と言うと私の手を取り歩き始めました。

その手はとても温かくて安心感を覚えました。

しばらく歩いているうちにだんだんと緊張してきたのですが、それを察してくれたのか彼女は私に声をかけてくれました。

「大丈夫だよ、リラックスして楽しんでくれたらいいから」

その言葉に救われたような気がして心が軽くなりました。

その後もいろいろなアトラクションに乗りつつ楽しい時間を過ごしていたのですが、途中で休憩することになりベンチに腰掛けました。

「ふぅ〜疲れたぁ」

と呟くと愛梨も頷いていました。

そこで私は思い切って提案してみることにしました。

「あのさ、最後に観覧車に乗らない?」

そう言うと彼女は快く承諾してくれました。

早速乗り場に向かい順番を待っている間ドキドキしていましたが、いざ乗り込むと不思議と落ち着いてきました。

窓の外を見ると街の明かりが宝石のように輝いていてとても綺麗でした。

「うわぁすごい綺麗だねー」

と愛梨が言うので同意しようとした時でした。

突然キスされたのです。

しかも唇にです!

あまりに突然のことで頭が真っ白になりましたが、数秒後に我に返り慌てて引き剥がしました。

「ちょ、ちょっと何するんですか!?」

私が怒ると彼女はいたずらっぽく笑って言いました。

「ごめん、つい我慢できなくなっちゃった♡」

そんなやり取りをしている内に頂上付近まで到達していたようで、夜景を一望できるようになっていました。

その光景を見た私は感動のあまり言葉を失ってしまいました。

一方、愛梨の方はというと相変わらず余裕の表情を見せていました。

悔しいけれどかっこいいと思ってしまう自分がいることに気付いてしまいました。

その後、地上に降りるまでの間私たちは一言も話さずにただ見つめ合っていました。

地上に到着してもまだ夢見心地のままだったので、彼女に手を引かれながら歩いて行くことしかできませんでした。

帰り道では終始無言だったものの、不思議と気まずさを感じることはありませんでした。

それどころか逆に心地よい感じさえありました。

駅に到着した後も改札を通る前にもう一度だけキスをすることにしました。

今度は私から攻める形で舌を入れようとしたらすんなり受け入れてくれたので嬉しかったです。

「んっ……ちゅっ……」

静かな駅構内に水音だけが響いていましたが、やがてどちらからともなく口を離すと銀色の橋がかかっていました。

それを見た瞬間に顔が熱くなるのを感じましたが、それ以上に幸せな気持ちでいっぱいでした。

そんな余韻に浸っているうちに電車が来たようなので急いで乗車することにしました。

電車に乗ると運良く座ることができたので一息つくことができました。

愛梨の方を見ると彼女もこちらを見ていたので目が合いました。

なんだか照れ臭かったので目を逸らしてしまいましたが、代わりに彼女の手を握ってみると握り返してくれたので安心することができました。

そのまま手を繋いでいるうちにだんだん眠くなってきてしまいウトウトしていると、

「着いたよ」

と言われ起こされてしまったので名残惜しい気持ちになりながらも下車しました。

そこから先はバスに乗って帰ることになったのですが、道中ではほとんど会話がなかった気がします。

しかし、それが気まずいと感じることはなくむしろ心地よくすら思えました。

家に帰り着く頃にはすっかり暗くなってしまっていたため、別れ際にキスをしてお別れしました。

帰宅後、自室に戻るとすぐにベッドに倒れ込み今日のことを思い出していました。

(楽しかったなぁ……)

そんなことを考えながら眠りに落ちていくのでした。

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