素直になれないあおいさん

ねこ丸3号

1.一目惚れ

その日は東雲しののめあおいにとって朝から憂鬱でしかない日だった。


今日は大学に入学して初めてのディスカッション形式の授業がある日。人と話す


のが苦手なあおいにとってディスカッションはまさに地獄の授業だ。


重い足を引き摺りながら大学のディスカッションルームに向かい席に着く。


班は事前に決められていて席がプロジェクターで映し出されていた。


あおいは窓側の後ろの方にある班だった。あまり目立たない席だったことに安堵して席に向かう。


先に来ていた2人と会釈をしてから座った。


授業開始までは後10分もある。この気まずい時間をどうやって過ごせばいいのかと考えあぐねているうちにだんだん人が揃ってきた。


6人半の最後の1人が来たのは授業開始の2分前だった。


「すみません、遅れてしまって。自己紹介もう終わっちゃいましたよね。」


普段ならあぁ陽キャが来たどうしようとしか思わないが今日は違った。


まずは声が好みだった。頭に直接響いてくるような心地よい声。

次に見た目が好みだった。顔が整っていて体格が細すぎなく高身長。

最後に雰囲気も好みだった。明るくて優しそうな雰囲気。


何もかもが完璧にあおいの好みのど真ん中だった。


何よりも最初に目が合った時にニコッと笑いかけてくれたこと。


それだけで十分だった。あおいは人生で初めて一目惚れをした。


さっきまでは話さなければいけない事に緊張していたのに、今では目の前にこんなにかっこいい人がいる事に緊張している。


(どうしよう。なんて話しかけたら…また嫌われないいな)


あおいがディスカッションが苦手なのは人と話さなければいけないことだけが原因ではなかった。


あおいは初対面の人と話す時特に話し方が冷たい言い方になってしまうし、緊張している時に顔つきがきつくなってしまう癖があった。


そんな風に言いたかったわけではないのに、そんな事思っていなかったのに、いつも空気を悪くしてしまう。


高校生の時にその事が原因でクラスの人達に入学初日から距離を行かれた事もトラウマになっていた。


そんな事を考えているうちに講師の説明が終わり、ディスカッションに入る。


話の中心にいるのはやっぱり最後に来たあの人だった。


「えっと、まず自己紹介するか。俺は九条くじょう隼人はやと、特技は初対面の人とすぐ仲良くなれる事、好きなものはピザです。隼人って呼んでね。よろしく〜」


「え、それ自分で言っちゃうの!」


「あはは、ツッコミありがとう。」


最初から笑いをとってもう班の人と打ち解けている。あおいだけがその輪に入れないでいた。


自己紹介があおいの番になった。緊張と焦りで頭が真っ白になってしまう。


「東雲あおい…特技とか特にないです…。」


あおいの無愛想な言い方に場の空気が固まる。


あぁまたやってしまった九条くんに嫌われてしまうと焦り俯いた。


「あ、緊張してる?えっと東雲、よろしく。」


なんとか場の空気を明るくしようと言ってくれた九条に少し安堵して会釈する。


その日は何事もなかったかのようにディスカッションをし、課題を提出した。


授業が終わってから九条が班員に声をかけた。


「これから週一でこのメンバーで授業あるみたいだし、連絡先交換しない?」


さっそく全員と交換したあと、すぐにグループが出来ていた。


「全員同じ学部だし、気軽にここで連絡取ろう!」


楽しそうに班員たちが話しているのをみてどうしても気まずくて九条に声をかける。


「あの、もう帰ってもいい?」


その瞬間九条の顔が少し引き攣ったような気がした。もしかして怒らせてしまったのではないかと焦って鞄を取る手が乱暴になってしまう。


「あー…用事とか、あるよな。また来週ね。」


明らかに気を使われている様子に居た堪れなくなって会釈をして急いで立ち去った。

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