第10話 真夜中の異変

真夜中の異変


その日はバイトが終わるとすぐに家へと帰った、山口さんからはあの後の話以降、事件の進展は無かったと聞き、秋元君には今度の土曜日に会う約束をしている。

バイトがある日は早めに食事を摂っている、アルバイトは午後6時から10時までの4時間。

大学のキャンパスを出るとすぐに小腹を満たすためファーストフードの店へ行きハンバーガーをパクつく。

そしてバイトの4時間をなんとかやり過ごす、確かにそれで腹は足りるかと言うと、そんな事あるわけがなく家に帰ると少し残り物を頂くことになるが。

夜10時に食べてしまうと良くないことも確かなので、一応食べる分量はセーブしていたりする。


「ごちそうさま」

「もういいの?」母(佐藤美津絵)

「あまり食べると苦しくて寝られなくなる」

「分かったわ」


食器を片付け自室へと戻る。

やることは論文の製作と授業内容のおさらい、一応勉強はちゃんとしないとね。

だがそうこうしていると1時間後には眠気が襲ってくるのだ、当然のことながら眠気には勝てずにベッドインすることになる。


「ふあ~ もう無理、寝よ」


そこまでは確かに覚えていた。

だがどれくらいの時間寝ていたのかは定かではないが、目が覚めたらそこは一面の荒野だった。


「サブッ!」


寒さを感じ目を開け周りを見渡すと、空は薄暗く雲で覆われ地面は石でごつごつしており、土はカラカラに乾いていた。


「ここは ど どこだ?」


見渡す限りの荒野、そこに俺だけがぽつりと取り残されたような状況。

そこに、聞きなれたような音が鳴り響く。


「プルプルプル」


自分の体のどこか、俺はポケットに手を入れると、そこにはスマホが有った。

勿論いつも使用している見慣れたスマホ。

だがその画面には例のアプリが表示されていた。


「おめでとうございます、貴方は鎮魂者として選ばれました」

「うわっ!なんだ?」


スマホの画面を見てみると勝手に音声が出て来た、しかも訳の分からないような説明を始めた。


「あなたはこの世界でまずは仕事をしなければいけません」

「し 仕事?」

「はい、この世界は現在 死と生を分かつ仮想現実のヘブンスバースです」

「メタバースは聞いたことがあるがヘブンスバースってもしかしてパクリ?」

「似たような世界がこれから増えて行くと思いますがその中の一つだと思って差し支えございません」

「要するにゲームのような世界か?」

「現実にはゲームではございませんのでご注意下さい、限りなく現実にリンクした世界となります」

「そうなんだ、でもなんで俺が?」

「このアプリは世界中のスマートフォンにランダムでダウンロードされます、割合は千分の1です、その後はアプリのコピー配布も可能ですが再配布した場合は全てデスアプリとなります」

「デスアプリ?」

「どちらも性質は同じですが、ライブアプリの方だけがこの世界で培った能力を現実で生かすことが可能です、デスアプリの方はこの地でいくら努力しても能力を持ち帰ることはできません」


ライブアプリは経験値を稼ぐと現実世界で+の経験として与えられるが、デスアプリ(コピー物)を使用してこの世界に入ると何も得られないと言うことらしい。


「もう一つお伝えすることがございます、このアプリは善行と悪行に左右されると思って良いでしょう」

「もしかしてこの世界に入る条件って…」

「いじめる側又はいじめられた側を写メる事です」

「まじか?」


今までに行方不明になった少女達は全てアプリの機能で写真を撮ったと言う事、そして例外なくヘブンスバースに捕らわれてしまうと言う事らしい。

確かに俺も撮られていた、先日のカラオケ屋さんではそいつの真下に押さえつけられていたのだ。

どうやらこのアプリ写真を撮る時、前面だけでなく後面も同時に写すらしい。

そして俺のスマホに入っていたアプリはライブアプリの方だと言う話。


「ご理解できましたでしょうか?」

「なんとなく…」

「それでは先に進めましょう」

「さ 先って?」

「まずは職業を決めましょう」


スマホから音声が流れると画面に文字が浮かび上がる、そこには職業選択の画面が現れるのだが、いかにもと言う感じの画像が3Dで表示される。


「これどこかのアプリゲームのパクリ?」

「製造元は開示できません」

「まあそうだよな、それで俺はこの世界で生き抜かないとどうなる?」

「あなたが善行のみで切り抜けて死んだ場合は善行の割合と相殺することで死から免れることも可能です」

「もしかして…」

「現実に復帰した時に死亡していた場合、かなりの悪行を重ねたかもしくはこの世界で善行を規定数行えなかった場合が考えられます」

「善行って言っても…」

「ゴミ拾いから始められます」

「そうなの?」

「はい」


ゴミ拾いって、そう言われてもこの荒野を見てはゴミってどれがゴミなのと突っ込みたくなるが。

目の前の荒野もこのヘブンスバースの一部でしかないのかもしれない。

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