第25話

 


 そのホテルの一室は思った程には汚れていなかった。

想像したほど悪い環境でもなく、寧ろ丁寧に整理されているように思えた。

私は持って来たスーツケースから着替えを取り出し、狭いシャワールームに入った。


 シャワールームの湯は熱くなく、最高の温度にしても丁度いい具合だ。

つまり、故障前、ってことかい。


 体を拭いて、あの時の、昔のスーツに身を包んで、ガンベルトを肩からぶら下げて胸に締めてみた。

心地良い、なんてものじゃない。

この新世界と呼ばれてる未来の世界に来ても、結局はあの時と同じ事をやらされているんだ。

しかし、うんざりしている場合でないことくらいは分かっている。

既に仕事は始まっているんだ。

簡単なことさ、仕事を始める、それはイコール命を狙われ始めた、っていうことなんだから。


 今度は締めていたガンベルトは外して、ベッドに横になった。

流石に疲れたよ。

少し休もう。

ネイサンがせっかく用意してくれた安全な場所だからね。

ネイサンを信じよう。

但し、今だけだ。

いや、その今も、安心している訳にはいかない。

私は警戒しながらも目を閉じた。

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